プルデンシャル生命のカリスマセールスマンとして大活躍していた最中の一昨年に、42歳の若さで急逝した甲州賢(こうしゅうまさる)氏。
彼の遺したセールス哲学をまとめ、5月に小社より発行した『プロフェッショナルセールスマン「伝説の営業」と呼ばれた男の壮絶顧客志向』(以下・本書)が、早くも話題になっている。
その驚くべき顧客志向とはどんなものなのか? 本書内では未公開のネタも含め、甲州氏の言葉の数々を著者自ら紹介していく。
「はい、甲州です。×時まで商談のため電話に出られません」
甲州氏は、会社の後輩からの折り返し電話が遅いと、次のように叱った。
「2時間もなにやってたんだ。これ、法人だったらアウトだぞ。社長さんたちがどれだけ忙しいか、わかってるのか!」
顧客をやきもきさせながら待たせるなど、あってはならない。そんな甲州氏の留守電メッセージは誰をも驚かせた。
「はい、甲州です。お電話ありがとうございます。×時まで商談中のため、電話に出られません。×時にこちらから、おかけ直しいたします」
そして、×時きっかりに電話がかかってくる。甲州氏は、1日に何度も、アポイントのたびに、携帯電話の留守番メッセージを更新していたのである。
時間への厳しさは、次のような言動にも表れている。
「電車が止まっても、道路が渋滞しても、遅れてはならない」
甲州氏は大切なアポイントの前日には、それが都内であっても、訪問先まで徒歩圏のホテルに宿泊して備えていたのだ。
「商品ではなく解決策を売るんです」
「僕はJTB時代に旅行を売っていたわけではないし、リクルートでも広告を売っていたわけではありません。いまも生命保険を売っているつもりはないんです。セールスという仕事は、お客さんのために解決策を提案することですから」
甲州氏が、若手たちによく聴かせていた話のひとつである。顧客が感じている、万が一のときの経済的な不安を解決したり、経営の課題を克服する手助けのために、生命保険という商品を解決手段としてたまたま売っているという考え方だ。
その具体例であり、甲州氏が得意としていた法人へのプランの提案については、紙幅の都合で本書へと譲りたい。ここでは、さらに踏み込んだ言葉をひとつ。
「社長と自分だけがハッピーな提案ではダメ。従業員全員がハッピーになれる提案をすれば、社長に堂々としてもらえる」
堂々と振る舞える社長は、経営者仲間たちに〈自慢話〉としてプランをふれ回る。そのなかで甲州という人間を紹介することにもなる。こうして、新たな経営者との出会いが広がっていくのである。