「気合いや根性には再現性がないんです」

本書は、じつに刺激的な甲州氏の自問で幕を開ける。

「どうしたらイチローの年俸を超えられるだろうか?」

本気でそこまで考えられたのは、甲州氏がつねづね、〈仕事は仮説・検証・仕組みづくり〉と定義していたからだ。

「目標設定の10%程度のアップですと、気合いとか根性で達成できるんです。でもそれでは再現性がない。いつまでも気合いだけですから、長続きは望めません。

でも、ビジネスの方向性をきちんと自分なりに定義して、仮説・検証して出した結果というのは、再現性が高いんです。

あと何十年ということを考えたら、ちゃんと仕組みをつくって、頭を使ってマーケットを開拓して仕事をしていかないと長くは続きません」

セールスパーソンたちにとって大切だが難しい“サステイナブル(持続可能)”というテーマに、甲州氏は真剣に向き合い続けていたのではないだろうか。だから、描いていた将来像は、じつにシンプルだ。「甲州さんには、もう十分尽くしてもらったよ。これまで本当にありがとう。お客さまからそう言われて、定年で引退することが僕の夢です」

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本書への読者レビューの中に、〈かつて甲州氏と一瞬だけ会話を交わした〉というエピソードを見つけた。甲州氏と接した多くの人たちが、親しい周囲の者も知らないであろう、その人だけの〈甲州伝説〉を持っている。甲州氏が私たちに遺してくれた“宝物”と言えよう。

その“宝物”は、しまっておくべきではない。レビューを寄せた読者のように世の中へと解き放ち、より多くの人たちとシェアしてほしい。そうしてまたひとつ、甲州氏の魂が生き続けていくことを、心より願ってやまない。