さて、冒頭で述べたように今回の選挙では野党側がこの1人区で「健闘」と言える結果を残した。実はこれも、1人区の有権者の声が政治に強く影響する過程を示している。

今回の1人区では、野党側は単に協力するにとどまらず、反TPP(環太平洋パートナーシップ協定)など、「農村にうける訴え」を繰り返した。このため一部の選挙区では、通常であれば自民党を支援する農協系団体の支持も取り付けている。

このような野党側の動きは、89年、07年の参院選でも見られた。図に示されるように、この2つの選挙では自民党が例外的に1人区で大敗している。89年選挙ではリクルート事件、消費税導入と並ぶ「3点セット」として一部農作物の輸入自由化への反対が叫ばれた。07年選挙では、民主党が農家の所得補償や高速道路無料化など、農村有権者にうける政策を訴えた。

1人区が全体の趨勢を決する参院選挙区では、自民党以外もこのように農村対策に注力せざるを得ない。しかしその陰で、都市部有権者の「声」は減衰したまま放置されることになる。このように参院選挙制度は、表面上の勝敗からはわからない、日本政治に対する隠然たる影響力を有しているのである。

※1:1980年参院選まで実施されていた、全国を集計単位とする改選定数50の選挙区。選挙区が広大で運動費用が嵩むため「銭酷区」と揶揄され、83年以降比例区に取って代わられた。
※2:なお、同様の傾向は衆院でも見られる。衆院の場合、選挙結果だけでなく、自民党内の昇進競争で農村選出議員が都市選出議員に対し優位に立っていることが、この農村バイアスを助長していると言える。菅原琢「日本政治における農村バイアス」『日本政治研究』第1巻第1号(木鐸社、2004年)参照。

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