リーマン・ショックを引き合いに出したもう一つの理由はアベノミクスの失敗を隠すためである。アベノミクスの効果がなかなか表れない原因はリーマン・ショック前夜のような世界経済の危機的状況にある、と言いたいわけだ。

政権延命の第一の関門は7月の参議院選挙であり、第二関門はダブル選挙の噂もあった衆議院選挙である。「リーマン・ショック並みの世界経済の危機」にすべてを押し付けて、「アベノミクスはうまくいっているのに世界経済に不安がある。新しい状況が発生したので公約を破るが消費増税を再延期するので参院選で審判を!」と選挙戦に突入すれば、政府与党は優位に戦える。そのためにG7を利用したのだ。シナリオ通りに6月1日、安倍首相は消費増税を“新しい判断”に基づいて2年半延期することを正式に表明した。民進党も予算委員会で消費増税を再延期するように迫っていて、実現しなければ与党を攻め立てる材料として、実現すれば自分たちの手柄として選挙戦でアピールしようと考えていた。しかし、有権者は政権与党が増税を延期した、と評価しやすい。国の借金が増え続けているのに補正予算を組んで無駄遣いを増やして、さらに増税を繰り延べしてどうするのか――。ドイツあたりならそういう議論になって、必ずしも増税を延期した政府与党有利の選挙戦とはならない。だが、日本の国民はそこまで考えないで、自分の代に累が及ばなければいいと判断する。だからG7での約束だ、と増税延期の正当性を打ち出せば選挙に勝てる、というのが安倍政権の考え方なのだ。

オバマ大統領の広島訪問には大きな意義がある

伊勢志摩サミット終了後、オバマ大統領が現職の米大統領として初めて広島を訪問し、平和記念公園で献花した。

もともとオバマ大統領は「大統領になったら広島に行きたい」と語っていたが、今回の訪問についてはこれに先立つG7広島外相会合で広島を訪れたジョン・ケリー国務長官の働きかけが大きかったと思う。ケリー国務長官はベトナム帰還兵で反戦活動の経験もある政治家で、原爆資料館を訪れた際には「すべての人間がここにきて、その力を感じるべき」とコメントしている。そのすべての人にはアメリカ大統領も含まれている、と述べた。現職大統領の広島訪問を逡巡していたホワイトハウスにケリー国務長官が相当プッシュしたに違いない。