今年4月、損害保険会社4大手の事業会社社長が一斉に交代。国内約8兆円の巨大市場を各社経営トップはどう捉えているか。海外企業のM&Aで新しい方向性を示す2人にインタビューした。

――東京海上日動 北沢利文社長「損保・生保一体の商品販売」

保険は人類が生み出した知恵

──損保市場の展望は?
東京海上日動社長 北沢利文氏

【北沢】少子高齢化で人口動態が変わるにつれて、自動車保険や自賠責保険、火災保険といった日本の伝統的な保険の保険料は減るだろう。とくにこれから安全な自動車が出てくれば、自動車保険の保険料は安くなっていく。従来のやり方を続けるだけで大きく成長するのは困難というのが、いま損害保険にかかわる人たちの共通認識だ。一方、日本は自然災害が多く、それに対する備えは必要だ。また、世界では備えることが当たり前になっているのに、日本ではまだ保険化されていないリスクも多い。それらに対応すれば成長も可能だ。

──日本でまだ保険化されていないリスクとは、どのようなものか。

【北沢】わかりやすいのは、プロスポーツ選手の年俸補償保険。野球などで高額の契約を結ぶ選手が病気や怪我でプレーできなくなっても、球団は年俸を払い続けなければならない。海外では、それを補償する保険が普及している。アメリカでは株主代表訴訟に備えるD&O保険(会社役員の賠償責任保険)も一般的だ。弊社は昨年、スペシャルティ保険に強いアメリカのHCCインシュアランス・ホールディングスを買収した。HCCは年俸補償保険やD&O保険のノウハウがあるので、日本における商品開発の参考にしたい。

ほかにも日本の企業のグローバル展開に伴い、新しいリスクが発生している。たとえばM&Aのときには会社の状況をディスクローズ(開示)したうえで契約を結ぶが、ディスクローズした内容に瑕疵があると、訴訟に発展しかねない。そのリスクに備える保険を表明保証保険といい、海外では企業から加入が検討されることが多い。

また、海外では工場が燃えたときなどに休業損失を補償する利益保険に入るのが一般的だ。しかし、日本の中小企業ではこの保険の浸透率が低く、大きなマーケットになる可能性がある。