人工知能をはじめとする、新しいテクノロジーが、世界を変えようとしている。
車の自動運転は、その中でも、人々の関心が最も高い技術の1つだろう。自動運転を行うことで、安全性が増すばかりでなく、新しい産業も生まれる。自動運転タクシーはもちろんのこと、運転中の車内での活動の可能性は無限。新しい経済活動の「ブルーオーシャン」が広がっている。
ところで、自動運転技術について、自動車産業の関連の方とお話しすると、可能性については積極的なものの、「完全自動運転」はまだ先、という方が多い。
「最初は、高速道路での自動運転から実現するのではないでしょうか?」
「いざとなったら、人間が介入できるような、そんなシステム設計になると思います」
そんな慎重なコメントをされる関係者が多いのである。
最初から最後まで人工知能に任せる完全自動運転が実現しないのだとすると、車で出かけて、レストランで飲酒をするということもできない。
特に地方都市においては、そのような可能性が開かれることの経済効果は絶大だと思うが、自動車産業の関係者は、完全自動運転については、実現しにくい、と考えていることが折に触れ伝わってくる。
ところが、完全自動運転以外は意味がない、と断言した人がいた。グーグルが、先端技術の研究開発のために設立した「X」(以前は「グーグルX」と呼ばれていた)で、実現不可能と思われるような大胆な技術目標「ムーンショット」の研究グループを率いる「キャプテン」、アストロ・テラー氏である。
「ムーンショット」とは、もともとは、当時のケネディ大統領が「人類を月に到達させる」と高らかに宣言したアポロ計画を指す名前である。Xでは、すぐには無理かもしれないが実現可能な技術目標を、「ムーンショット」と呼んでいる。