テラー氏は、今年の2月にバンクーバーで行われたTEDの会議で講演し、自動運転車の「グーグル・カー」、荷物の自動運送を担う無人飛行機「プロジェクト・ウィング」、眼鏡型情報端末の「グーグル・グラス」などを含むムーンショット研究プロジェクトを紹介した。

2015年6月、グーグル・カーがシリコンバレーの公道で試験走行を開始した。(写真=AFLO)

私は会場で聞いていたのだが、テラー氏が「自動運転」について言われたことに深い感銘を受けた。「我々は検討を始めてすぐに、完全自動運転以外には意味がないと気づいた」と断言したのである。

「人間は、人工知能に運転を任せていて、車内でリラックスしているときに、突然、運転しろと要求されても、そもそも対応できない」とテラー氏。「だから、私たちは、ハンドルのない、完全自動運転車をつくったのだ」。

テラー氏の発言は、技術目標というものを、どのように見定めるかという点に関する、深い叡智を示しているように思う。

中途半端な自動運転車をつくっても、役に立たなければ意味がない。なによりも、ユーザーに、認知上、行動上の、実際的ではない負荷をかけてはならない。

テラー氏の言うように、「完全自動運転車」以外は、ユーザー側にとっては使いにくい、安全ではない乗り物になってしまうだろう。そのような「本質」を一気に見抜いた「ムーンショット」の「キャプテン」の眼力にしびれた。

技術課題の本質を見極めなければ、大胆な研究はできない。未来に関心を持つすべての人が心に留めるべきだろう。

(写真=AFLO)
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