私(ITSジャパン 渡邉浩之会長)が1987年に商品化したトヨタの主力セダン「クラウン」の開発を担当したとき、デジタル地図を世界で初めて車に搭載しました。当時はまだ全地球測位システム(GPS)はなく、地磁気や走行距離などから現在地を把握したものです。それだけITとの関わりは長く、自動運転の実現による社会の変革をワクワクした気持ちで見ています。

1886年にドイツのカール・ベンツがつくった三輪自動車が世界最初の自動車でした。そして、1913年にアメリカでベルトコンベヤーの導入による大量生産が始まり、10年当時に736ドルだったT型フォードの価格は20年には250ドルまで低下し、一気に自動車が普及しました。その後、全米にくまなくハイウエーが張り巡らされるようになり、産業の大躍進をもたらします。これが20世紀初頭までに自動車がもたらしたイノベーションです。

そしていま、自動車の世界では、これまでの自動車社会のなかで失ってきたものを取り戻す動きが始まっている気がします。自動車が誕生するまでの乗り物であった「馬」を想像するとわかりやすいでしょう。馬は排ガスも出さずに、草原を爽快に走ってくれますね。それと同じ役割を、電気自動車や燃料電池車が行おうとしているのです。

また、馬はゆっくりとなら高齢者も乗ることができますが、いまの自動車は限られた年齢の健常な人しか運転ができません。そこで自動運転を可能にすることによって、誰でも自由に移動できるモビリティをつくれば、高齢者の外出を促せます。その結果、高齢者の活力が維持され、社会福祉費用の抑制につなげていくことも期待できるのです。

自動運転は39年にアメリカのGMが世界で初めて提唱し、50年代から実験が始まりました。グーグルは2017年の実用化を目指していますが、その中核技術である車両用の人工知能(AI)の分野ではアメリカが一歩進んでいます。一方、日本はアメリカから約10年遅れて実験が始まったものの、カーブをはじめとする道路の形状や路面の状況など、先々の情報を取り込む高度道路交通システム(ITS)の技術で世界トップを走っています。