特許開放はスタンドプレーなのか
昨年12月15日に世界の先陣を切って水素燃料電池車の市販モデル「MIRAI(ミライ)」を発売したトヨタ自動車。が、トヨタの打つ手はそれだけではなかった。今年1月6日、アメリカのラスベガスで開催された世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)で、今度は5700件近くにのぼる燃料電池車に関する単独特許を2020年まで、水素ステーション関連については永久に無償化すると発表、メディアを騒然とさせた。
それからさらにおよそ1カ月がたった今、トヨタに寄せられた特許使用に関する問い合わせは十数件であるという。自動車メーカーも含まれているというが、水素ステーションや水素製造を手がけるエネルギー関連企業が主体とみられる。
この問い合わせ件数が多いか少ないかはさておき、燃料電池開発では競合関係にあるメーカーからは、「トヨタがなぜ特許開放を声高に打ち上げたのか、動機がわからない。なぜなら、少なくとも大手メーカーは以前から製品化を視野に入れた研究開発を進めており、それぞれ柱となる特許を持っている。スタンドプレーではないのか」といった声も聞こえてくる。
別の見方もある。燃料電池車の開発ではトヨタと並ぶ世界のトップランナーと目されるホンダの開発系幹部は次のように語る。
「燃料電池車は技術的にとても難しい。ウチは08年に燃料電池車『FCXクラリティ』をリース販売しました。3年で200台を予定し、量産ラインも組んだのですが、いざ売り出してみると、想定外の技術的難問が噴出して結局頓挫しました。その後、技術の進化で燃料電池車のクルマ単体としての問題は解決されつつありますが、難しいのはそれだけではない。トヨタは世界の中でも最も多くの開発資金と人員を割いて燃料電池車の開発を推進してきたメーカー。それだけに、水素の難しさは誰よりもわかっているはず。世界にプレーヤーを増やして、技術革新や量産の広がりをうながしたいという思いは本物なのでしょう」