6月25日、次世代エコカー技術のひとつである水素燃料電池車の市販モデルのプロトタイプ(試作車)「TOYOTA FCV」を公開したトヨタ自動車。販売予定価格を過去の燃料電池車より1桁少ないオーダーである700万円に設定するなど、一般ユーザーにも手が届くレベルを目指しているのが特徴だ。が、燃料電池車は水素エネルギーの扱いの難しさやインフラ整備、エネルギー効率など、様々な課題を抱えているのも事実。
なぜトヨタは今、燃料電池車にこれほど前がかりになっているのか。開発のキーマンである田中義和氏に聞いた。

燃料電池車は、もはや「未来技術」ではない

――6月のトヨタFCVの公開は、燃料電池車が今度こそ現実のものとなるのではないかという期待もあって、各方面から大きな注目を浴びましたね。
田中義和(たなか・よしかず)●1961年生まれ、滋賀県出身。京都大学工学部を経て同大学院で機械工学を修める。87年同大学院修了後、トヨタ自動車に入社。オートマチックトランスミッションのハード開発、制御開発を担当。初代vitzの新型4AT開発、FR用多段A/Tの開発を担当。2006年3月、製品企画部門に異動。プラグインハイブリッド車の開発を担当する。07年よりプリウスPHVの開発責任者としてプロジェクトのとりまとめを担当。その後、12年よりFCVの開発責任者として製品企画業務を担当し、現在に至る。

これから10年、20年という長いチャレンジが続くであろう燃料電池車ですが、トヨタFCVに対して、われわれの予想を越えて皆様から大きな関心を持っていただけたのはうれしいです。トヨタFCVのコンセプトを昨年の東京モーターショーで披露した時は、まだ未来技術と受け止められていました。

6月の市販型プロトタイプの発表で「本当に発売するんだな」という空気に変わってきたのを感じました。現在、ディーラー関係者を対象にトヨタFCVの体験試乗を行っているのですが、そこでも非常にポジティブにご評価いただいています。これは売れますよ、と。

――過去、燃料電池車のムーブメントは2回ありました。トヨタ、ダイムラー、ホンダなどから技術が提示されはじめた90年代後半、実際に公道を走るようになった2000年代前半です。が、いずれも空振りに終わりました。

そう、燃料電池車を本格的に社会に投入しようというチャレンジは過去にもありました。が、いずれも不発に終わりました。燃料電池車と同様、究極のエコカーといわれるバッテリー式電気自動車も難産に苦しんでいますが、こちらはそもそも物語が始まる段階に至っていません。最大の原因は何かというと、やはりエンドユーザーを含め、広くお乗りいただけるクルマがなかったということに尽きると思うんです。

そこでトヨタFCVでは、何よりも皆様がひと目見て「これは欲しい」「乗ってみたい」と思い、乗ってみて「ドライビングが楽しい」「今までのクルマとまるで違う」と感じていただけるようなクルマづくりを目指しました。