技術革新途上の囲い込みは意味がない

トヨタ関係者も「2020年は永久ではないが当面という意味。それを過ぎたからといって、必ず有償化すると決めているわけではない。あくまで特許を利用する側との話し合いによります」と、特許による技術防衛や知財収入より、とにかく燃料電池車に参入するプレーヤーを世界で増やすことを優先させる考えを示す。

知的財産は自動車メーカーにとってはきわめて重要なもの。それをトヨタが無償で提供すると決断した動機は何か。考えられる理由のひとつは、電気自動車や燃料電池車のような技術進化がまだ低位にあるジャンルでは、もともとオープンソースが向くという特質を素直に受け止めたのではないかということだ。

燃料電池車に先行して普及が始まっている電気自動車を巡っては、一時、バッテリー技術を持つメーカーの囲い込み競争が起こるのではないか考えられたことがあった。が、実際にはそうならなかった。電気自動車はエネルギー効率の面から見れば最高のパフォーマンスを持っているのだが、バッテリーの性能や耐久性、価格は、ユーザーが求めるレベルの平均値に到底至っていない。もしその中で画期的なものが生まれてきたとしたら、否応なく古い技術を捨てて新しい技術を使わざるを得なくなる。競争力を失った自社技術に固執しても負けるだけだ。技術革新途上の分野においては、囲い込みは意味がない。

燃料電池車はまさに、その技術革新途上にある技術だ。トヨタが発売したミライは、燃料電池の小型化、省資源化、高圧水素タンクの低コスト化など、革新的な技術が盛り込まれているのだが、エコカーとしての性能は決して傑出したものではない。ミライはJC08モード下で水素1kgあたり130km走行することができるという。水素1kgが持つエネルギーの量はおよそガソリン4リットル分に相当するので、ガソリン車風に燃費を表示すると32.5km/リットルという数値になる。

この数値はミライが属するミドルクラスセダンのエンジン車のなかで目下の燃費トップランナーであるホンダ「アコードハイブリッド」の30km/リットルをわずかに上回るだけで、水素製造や高圧タンクへの充填で生じるエネルギーロスを考慮すると、既存のハイブリッドカーに効率で圧倒されているというのが実情なのだ。実は、トヨタもつい最近まで、燃料製造から走行までをトータルに計算したWell-to-Wheelでは、再生可能エネルギーなどを使わない限りエンジン車のハイブリッドのほうが効率が高いというデータを出し、そう宣伝していたのだ。