書類のかたちで相手に渡すにせよ、トークの際にプロジェクターで映すスライドにせよ、プレゼン資料がビジネスの現場で重要な意味を持つことは言うまでもない。

この連載でも、以前、スティーヴ・ジョブズさんのプレゼンは、模範の1つだったということを書いた。

何よりも大切なのは、「愛のあるサプライズ」。サプライズは大切な要素だが、それが、押し付けになってはいけない。相手が何を望んでいるのか、何を疑問に思っているのか、それを的確に読み取って、ふさわしいプレゼンをしなければならない。

プレゼンは、簡単なようで、奥が深い。ノウハウだけでは、なかなか人を感動させられない。すぐれたプレゼンには何が必要なのか。改めて考えてみたい。

大学の授業も1つの「プレゼン」だが、「業界内」で経験的に言われていることは、授業で教える内容の、少なくとも10倍くらいのことは知っていないと、よい授業はできないということである。

教師は、自分の知っていることのうち、ごく一部分だけに絞って、学生に伝える。わかりやすくするためには、思い切って少数ポイントだけを繰り返し伝えるほうが効果的である。問題は、それをする勇気があるかどうかだ。

ある分野についての入門者、初心者は、自分の能力に自信がない。自信がないだけに、つい、調べたことをすべて相手に伝えようとしてしまう。

例えば、ある事柄について、3つのポイントだけを伝えるとする。初心者は、実際に3つのポイントしか知らないということが多いから、それだけでは不足なのではないかと、不安になってしまう。自分が安心するために、さらに多くのポイントを積み上げようとしてしまうのである。

その結果、わかりにくいプレゼンになる。たくさんの雑多な事実が羅列されていても、聞く側は何を「持って帰るべきメッセージ」として受け止めていいのかわからない。結果として、伝えたいことも伝わらなくなってしまって、プレゼンは失敗する。