「家電を売っている」という意識は、一度も持ったことがありません。今の時代は多くの人が必要な物をすでに手にしているので、もう物としての家電は求められていない。私たちが売ることができるのは「物が起こしてくれる体験」しかないと考え、この6年間家電を作り続けてきました。

デザインした人 バルミューダ代表取締役 寺尾 玄

体験は五感のインプットによってつくり上げられます。その五感すべてを使うのが「食べる」という行為です。毎朝食べるトーストがすばらしい体験になれば、人生はもっと豊かになりますよね。作っている間に待つ喜び、できあがる喜び、提供する喜び――。そのすべてを素晴らしい体験にすることだけを考え、「トースター」の開発に乗り出しました。

では美味しいトーストとは、何でしょうか。それは、食パンの中に水分や油脂成分がたっぷり残っていて、周りがカリッと焼き上がった、熱々の状態のことをいいます。

この状態をつくるためにまず開発したのが、トースターの上にある給水口です。ここに5ccの水を入れると、機械の内部にあるパイプをつたわり、下のボイラー部までたどりつきます。運転が始まるとその水がスチームになりトースター内に充満し、パンの表面に薄い膜を作る。水は空気よりもはるかに速く熱くなるので、パンの表面だけが軽く焼けた状態になり、パンの中の水分やバターなどの油脂成分、香りをしっかり閉じ込めた状態で焼き上がります。