公務員の「仕事」と「遊び」

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
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【若新】高橋さん自身はどうですか。JK課の担当を経験して、公務員としての働き方や考え方に変化はありましたか。

【高橋】誤解を恐れずに言うと、僕も今、仕事を遊んでいるのかもしえません。JK課を担当するまでは、僕にとって、「仕事」と「遊び」は別でした。「仕事」は「仕事」だったんです。大学生との連携も「仕事」でしたし、100%仕事のなかで、遊びを演出する程度のものだったと思います。でも今は、家に帰ってからも、JK課の子たちとLINEでやり取りしていたり、そういう時、仕事と遊びの境界はあいまいです。

【若新】つまりそれは、仕事だから、という責任感や義務感からではないコミュニケーションと人間関係が、彼女たちとの間に発生しているということですね。

JK課で高橋さんたちと組めてよかったのは、この新しくて“ゆるい”企画を、高橋さんたちが裏方としてきっちり運営してくれたことです。高橋さんの仕事の進め方、特に関係者への連絡や事前準備、情報管理などは本当に抜かりがなくて、これがJK課がうまくいった大きな要因だと思います。高橋さんは、仕事を抜かりなくやりながらも、その中に遊びの感覚を取り入れていっているように見えます。そして、すごく楽しそうに働いてますもんね。でもそれって、結構難しいことだと思うんです。

【高橋】楽しいです。こんな楽しい仕事は他にありません。

【若新】そのあり方が、市役所の中でも認められつつありますよね。さっきの公用車で大笑した話もそうですが、実は職員1人ひとりがかたいのではなくて、市民や地域の側に「公務員はこうあるべき」という考えが強くあって、職員の行動が抑圧されていたのかもしれません。もちろん、税金や市民の個人情報を扱うような部署には、それをしっかり運用するための「かたさ」が必要だと思いますが、高橋さんが所属する市民協働課では、市民とどうやって垣根を越えて柔軟に連携するかがテーマです。ひとくくりに公務員といっても、「ゆるい」から「かたい」まで、いろんな役割があっていいと思います。そういった公務員のあり方の多様化も、JK課を通して見えてきたということですよね。

【高橋】1つ心配があるとすれば、もし僕が異動してJK課を離れたら、後任の人は大丈夫かなと思いますね。これまでの市役所職員に「ゆるさ」はまったく求められていませんでしたから。

【若新】本当はそういうあり方を継承できるといいですね。高橋さんがJK課で得た働き方やあり方を次の職員に引き継ぐとしたら、どのように伝えますか。

【高橋】女子高生たちを「信じる」ことと、彼女たちに「任せる」ことでしょうか。実はこれが難しくて、僕はもともと、なかなか人に任せられない性格でした。例えば後輩に仕事を任せるよりも、自分でやったほうが正確だし早いと思ってしまう。こういう公務員は多いと思います。でも、「相手を信じて任せよう」という姿勢が大事なんでしょうね。

【若新】行政と市民の壁を越えて、新しい公共をつくっていくには、「信じて任せる」ことと悩みながらも我慢して待つことが大事。でもそれを、単に「仕事」という概念や責任感の中だけで実現しようとしても、限界があるのかもしれませんね。しかし、行政職員に「遊び」なんて許されなかった。高橋さんは今、とんでもなく激的なパラダイムシフトにチャレンジしているのだと思います。

(前田はるみ=構成)
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