“割り切れない”問題を話し合う

体験移住住宅を見学する参加者たち

福井県鯖江市で、10月から最大半年間「家賃無料」で田舎暮らしを体験できる「ゆるい移住」事業を企画・運営しています(詳細は連載28回参照 http://president.jp/articles/-/15662)。

これは、県外からの体験移住を希望する若者に市の管理する住宅を一部無料で貸し出し、仕事の斡旋や紹介などは行わず、参加者に共同生活をおくってもらいながら自由にまちを体験してもらうという実験的なプロジェクトです。

先日鯖江市で行った事前合宿には、北は北海道から南は兵庫県まで、関東を中心に日本全国から集まった19名(男性13名、女性6名、平均年齢29歳)が参加。東大卒のコンサルタント、ITフリーランス、メーカー勤務の技術者、介護士、元パティシエ、ミュージシャンなど職業や経歴もとにかくいろいろです。

そしてなんと、そのうち17名が、10月から実際に体験移住を行ってくれることになりました。これは鯖江市の想定をはるかに超える、驚きの数字でした。

事前合宿の目的は2つ。1つは実際に住む部屋やまちの様子を見てもらうこと。もう1つは、10月からの住宅の利用方法や各参加者の移住期間、家具の調達などを参加者同士で話し合って決めてもらうことです。

市が用意しているのは、3LDKの住宅2戸。部屋数に対して想定以上の応募があったので、市の職員の方たちはかなり心配されていました。合宿の直前には、「部屋の利用方法について、本人たちの話し合いに任せて本当に大丈夫でしょうか」という相談もきました。当然の不安だと思います。

でも僕は、「大丈夫です」と答えました。確かに、やってみないとどうなるか分からない「不確実さ」はできるだけ排除したいものだと思いますが、初対面の19人が納得いくような完璧な「仕切り」を準備することなんて、そもそも不可能です。どうせ完璧に仕切れないのなら、最初から本人たちを信頼してちゃんと任せるべきです。

まさに“割り切れない”問題を、時間をかけてでも当事者同士で話し合っていく、というコミュニケーションそのものが、新しい環境で何かを始めていく上でとても重要だと思うのです。職員の方たちにも、納得してもらうことができました。