「ゆるい」というまちの魅力
受け入れ側の鯖江市にとっては、距離の離れた関東圏からの参加者が多かったことも驚きでした。当初、僕も含めて、福井県の場所くらいは知っているであろう関西圏からの参加者が多いだろうと予測していたのですが、実際には、東日本からが多数でした。その多くは福井県に来たことは一度もなく、何の縁もゆかりもないという人がほとんどです。中には、合宿当日まで地理的な位置をまったく知らなかった人すらいました。
つまり、このプロジェクトの応募者が田舎への体験移住を検討する上で大事だったことは、地理的な条件や地域への事前知識・情報ではなかったということです。
どんな人でも、まったく知らない土地に移住するとなれば、「自分はそこで受け入れてもらえるのだろうか」「困ったことがあった時どうすればよいのだろうか」と不安に感じるものです。「ゆるい移住」の参加者募集が成功したのは、「ゆるい」という言葉に、多様なバックグラウンドや価値観を持った「いろいろな人」を歓迎しようとする鯖江市の柔軟さや度量の広さを感じてもらえたからだと思います。そして、一緒になって「新しい何か」をつくっていく覚悟を伝えられたのだと思います。これはまさに、鯖江というまちがもつ大きな魅力です。
参加者の1人、普段はインターネット物販の仕事をしている男性が、鯖江の伝統工芸を見学してこんなことを言っていました。
「(鯖江の名産である)漆器でつくられたiPhoneケースや高級雑貨は、値段が高いですが、実際に手にとってみると、その理由が分かります。なぜその値段になるのか、それを丁寧に説明できれば、ネットでもっと売れると思います」
「よそ者」だから気づくことや発掘できる魅力も、たくさんあるのだと思います。半年間の「ゆるい移住」で、それまでになかったいろいろなコラボレーションや新しい変化がうまれたら、このプロジェクトの最初の目的は達成されます。
もちろん、いろいろな問題も起きると思います。変化や問題を回避するのではなく、それをいかにうまく吸収しながら形を変えていけるか。これからのさまざまなコミュニティに必要なのは、潤沢な資源や確実な計画よりも、柔らかいのに簡単には壊れない「ネバネバ感」のようなものだと思っています。