ストレスチェックは年1度の心の健康診断

それではなぜ、このようなテストを実施するのだろうか。

「この制度の中身に関してはまだまだ改良の余地があると思いますが、一番いいのは、年に1度、自分の心の健康について改めて考えるきっかけになることです」と武神医師は言う。」

「普段はどんなに不養生な人でも、年に1回、体の健康診断を受ける日は、自分の健康について真面目に考えるでしょう。ストレスチェックもそれと同じ。自分はストレスとは無縁だと思っている人も、テストを受けることで年に1回はストレスやメンタルヘルスについて考えるきっかけが得られる。これには大きな意義があります」

また、ストレスがあっても我慢してしまう人、不安や悩みがあっても誰にも話せないという人を、このテストですくい上げるのも狙いだ。

武神医師によれば、「強いストレス、不安、悩みがありますか」と聞くと、「はい」と答える人は52%。次に「それを誰かに相談しましたか」と聞くと「はい」と答えたのは4人のうち3人。逆にいえば4分の1は「誰にも相談できなかった」と答えているのだ。これは100人社員がいれば、13人は強いストレスを感じながら、誰にも相談できずにいるということだ。

「誰かに相談した4分の3の人たちに、『相談してどうでしたか』と聞くと、31%は『解決した』、58%は『解決はしなかったけれど楽になった』と答えています。両方足すと89%ですから、約9割の人が、カウンセラーや医者でなくても、友達や家族など人に相談することで楽になったということです」(同)

またこのテストの目的は、メンタル不調者をゼロにすることではない。

「うつは病気ですから、ある程度の割合で必ず発生します。たとえば100人社員がいたら、1人はメンタル不調で休職中、1人はメンタル不調を会社にカミングアウトしながら働いていて、1人はメンタル不調で薬を飲んでいるが、それを会社に隠して働いている。この3人がいるのが普通です」

社員が何人かいたら、なかには血圧の高い人もいるし、高脂血症もいるし、糖尿病もいる。「高血圧者ゼロを目指さないのと同じように、メンタル不調もゼロを目指してはいけない」と武神医師は主張する。ゼロを目指すと、メンタル不調を隠す文化になってしまうからだ。ストレスチェック制度を有効に活用するためにも、メンタル不調を隠さない文化をつくることが不可欠なのである。

「たとえば何十年も一緒に働いているおじさんたちは、同僚の誰が高血圧で誰が糖尿病か知っているでしょう。するとお土産におまんじゅうをもらったとき、『ナントカさんがこれ食べたら血糖値上がっちゃうよ』と冗談を言ったりする。そういうふうに命にかかわらない身体の病気は笑いのネタになる。でも誰かがコーヒーを飲んでいて、『それ飲んだら夜眠れなくなって、うつが悪化しちゃうよ』なんて冗談は言わないのがいまの状態。でも会社で仲のいい人が、頭が痛そうにしていたら『大丈夫?』と声をかけるでしょう。メンタル不調もそれと同じ。声をかけたからといって、その人が治さなければいけないということはありません。適切な社内のプロセスに進んだり、『専門科に行ったらいいんじゃない?』と言ってあげればいい」(同)

テストを有意義なものにするには、1人ひとりの意識を変えることも求められているようだ。

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