「どこの組織でもうつ病が増えていると感じます。うつ病は社会経済的な影響を受けますから、不況によるストレスがその大きな理由であることは明らか」
様々な職場のメンタルヘルス対策に関わっている防衛医科大学校精神科の野村総一郎教授はそう語る。
2005年の厚生労働省の患者調査によると、うつ病や躁うつ病など気分障害の総患者数は92万4000人。10年足らずで2倍以上に増加しているという、非常に深刻な状況にある。
最悪の場合、自殺につながる心の病に対し、これといって有効な対策が打ち出されないまま、新たな歪みも広がっているようだ。業務上の過労やストレスが原因の労災補償の相談を受ける「過労死110番」に長年携わってきた、玉木一成弁護士が説明する。
「精神疾患への労災補償請求は急増し、過去4年間で倍増しています。同じく数は増え続けている脳・心臓疾患は50代が多く20代は少ないのに対し、精神疾患は20代、30代の若い人が多い。若いので体の無理はきいても、様々な精神的重圧を受け、うつ病などの精神疾患になってしまうのです」
今、若い人が職場で受ける精神的重圧とは、「業績を上げないと正社員から転落する」恐怖である。例えば、「名ばかり管理職」の過労死問題が相次いで報道された、ファストフード店などが典型だ。
「『店長は経営者と同じ責任を持って業績を上げよ』と会社から言われるが、権限はほとんど与えられない。するとできることは人件費削減だけなので、アルバイトを減らして自分の労働時間を増やし、残業はつけない。でもこのご時世ですから業績はなかなか良くならず、『このままでは辞めなければいけないが、辞めたら二度と正社員に戻れない』と追い詰められていくのです」(玉木弁護士)