さまざまな専門性を長年磨き、定年退職や早期退職をした大企業OB。知識や経験をもつ人材の不足から、商品開発やマーケティング、海外展開、人事・総務の仕組みづくりに悩む中小企業。“街場の金融機関”である信用金庫(信金)が両者を仲介し、マッチングする「新現役交流会」という取り組みが広がっている。少子高齢化の影響で若い労働人口が減少するなか、新たな経済成長の源泉となりそうだ。どのように「新現役人材」(交流会では中小企業にマッチングするシニアをこう呼ぶ)と中小企業は結び付けられているのか、その歴史と仕組みをひもといていく。

大企業OBと中小企業をつなぐ仕掛け

「新現役交流会」が最初に催されたのは2009年。東京・葛飾区の亀有信用金庫が口火を切った。それ以前も大企業OBの情報をデータベース(DB)化し、中小企業のニーズと結び付ける取り組みはあったが、成果は上がらなかった。当時、中小企業と大企業OBのつなぎ役をしていた、ある「新現役」者が、マッチングの過程に中小企業との取引が多い信金を巻き込むことを発案した。その後は年々参加する信金が増え、14年度には関東、中部、九州など31の信金が交流会を開催(共催も含む)。DB登録者数は全国で約4000人となっている。

亀有信金の新現役交流会で面談する、新現役人材(手前)と中小企業の担当者ら。

新現役交流会を通じたマッチングのプロセスは、信金の営業担当者が顧客(中小企業)のニーズを聞くことから始まる。交流会が活用できそうな案件には企業にコーディネーターが派遣され、抱えている課題や求める人材を詳しくヒアリングする。コーディネーターはこの制度のカギを握る役割だ。ベテランの新現役人材、中小企業診断士、大企業の役員経験者などが担う。中小企業経営者と大企業OBの「通訳」であり、中小企業の要望を、新現役人材に伝わる言葉でニーズ文書にまとめる。

DBに登録した新現役の人たちはニーズ文書を閲覧し、希望する企業に面談を申し込む。こうして数十社の中小企業と新現役人材の、「新現役交流会」が催される。さらに各企業を訪問する再面談に進み、そこで両者が合意すると「マッチング成立」となる。マッチング後、最初の数回分の新現役人材による指導・助言には国の補助金があり、中小企業の負担はない。契約を続行する場合は、両者が個別に顧問契約などを結んで関係を続けていく。

関東の1都6県に加え、新潟、山梨、長野、静岡を管轄する関東経済産業局によると、13年度、管内の新現役交流会に延べ439社が参加。うちマッチング成立は180社に及び、成約率は4割を超す。さらにその半数が契約を継続している。14年度は延べ485社が参加。うちマッチング成立は295社に及び、成約率は6割を超す。交流会支援を担当する同局中小企業課の村瀬一世氏は、「コーディネーターと信金の担当者がニーズを丁寧に聞き取り、課題を整理することが、成約率の高さに結び付いている」と、取り組みを評価する。