悩み解決で融資も安泰の“仲人役”信金

では、間に立つ信金は、どんな狙いで新現役交流会を主催するのだろうか。交流会を最初に始めた亀有信金の矢澤孝太郎理事長は、「私たちは金融のプロだが、お客様の事業分野については素人。事業の相談を受けても、本業への助言などおこがましいと考えていました」と話す。だが、コーディネーターと一緒に経営者を訪問すると、プロ同士の会話が始まる。「今まで知らなかった経営者の一面を見られました」。新現役交流会ができたことで、「まずはお話を聞かせてくださいと言えるようになった。おかげで職員の力も上がってきている」と矢澤理事長。

顧客の本業支援に積極的に踏み込むことは、融資拡大にもつながった。交流会を活用した企業への融資残高は、平均値を上回るようになったという。信金の事業の根幹である地元の中小企業支援に、強力な武器が加わることが、新現役交流会を催す信金の拡大を呼んでいるのだろう。

ホンダOBが大活躍する老舗ハサミメーカー

実際に、新現役人材を活用している中小企業2社を訪問した。

理容、美容用ハサミを製造するヒカリ(本社・東京都板橋区、高橋一芳社長)。従業員53人、年商5億円という中小企業だが、「ハマグリ刃」という日本刀の技術を取り入れたハサミの切れ味は、理容・美容業界ではよく知られたブランドとなっている。

ヒカリの高橋一芳社長(右)とホンダOBの西川正雄氏。

12年に瀧野川信用金庫が催した新現役交流会を経て同社の顧問となり、週1回訪問するのが、ホンダOBの西川正雄氏(78)だ。西川氏は長年研究開発畑を歩み、二足歩行する「アシモ」の前身となるロボット開発の責任者も務めた。ホンダ退職後は大学教授も歴任しているほどの人材だ。

1つひとつ職人が手作りする、工房のようなハサミメーカーと、ホンダOBのハイテクエンジニア。いったいどこに接点があるのかと思うが、「ロボット開発に携わったような方なら、アイデアを出し、それを形にしてくれるだろうと期待しました」と高橋社長。

同社では職人の負担軽減や生産性向上、一人前になるまで10年という養成期間の短縮などを目的に、作業機器や工具を開発、改良したいと考えていた。「私たちはハサミのプロですが、機械工作は素人。ニッチな業界なので、作業機器の外注も、なかなか応じてくれる業者がいなかった」(高橋社長)。

西川氏は「私もハサミ作りは素人。職人たちが何に困っているのか、すぐにはわからないが、それを高橋社長が詳しく説明してくれる。すると、どう問題を解決するかという段階に進み、お互い知恵が出てくる」と話す。問題解決のアイデアさえ出れば、西川氏は自ら図面を引き、機器の組み立てもこなしてしまう。

こうした二人三脚で、これまで「刃物研ぎ初心者が、簡単に正しい研ぎ角度を身に付けられる補助器具」「職人が体を無理に傾けないで済むよう、作業しやすい角度に傾く作業機器」などを開発してきた。さらに同社では腱鞘炎に悩む美容師を救うため、「腱鞘炎でも使えるハサミ」を開発中だ。西川氏はそのプロジェクトにも協力しているが、こうした作業やプロジェクトに、西川氏は同社の若手と一緒に取り組んでいる。「問題をどうしても解決するという執念を若手の人たちが持てるようになれば、私も安心して引退できる」と、若手育成への思いも語った。