集中力は「ながら作業」で著しく低下
集中するために忘れる。これはどういうことかというと、パソコンで作業をしているときに話しかけられた際、完全に手をとめて話を聞けるかどうかがだと思います。本を読んでいるときに話しかけられたら、本をおいて話を聞くのに、パソコンで何かを読んでいるときは、読みながら人の話を聞こうとする人が増えたように思います。それは、マルチ・タスキングという名の「ながら作業」にすぎません。
頭の切り替えをしないまま、ながら作業に慣れてしまっては、集中力は低下する一方なのではないでしょうか。ながら作業をしているのに、マルチ・タスキングをしているつもりになっていると、ただこなすだけの仕事しかできなくなるのではないかと危惧します。わたしが社内でやっていることとして、重要な会議はスマホなどをオフにして行うようにしています。
本当のマルチ・タスキングができる人は切り替えが上手です。並行する時間軸でいろんなことをそれぞれフルに行えます。私はそこまでマルチ・タスキングができるほうではないので、目の前にあることにフォーカスすることを選んできました。
集中するというのは、無駄を断捨離することでもあります。ながら作業をしながら重要な判断を的確にくだせるとは思えません。パソコンの手を止めたり、スマホを見ないようにしたりというのは、日常の中で誰にでもできる集中力を高める訓練だと思いますので、ながら作業に陥っている人は、ぜひ、実践してみてください。頭を切り替える癖は、誰にでも身につけることができることですから。
その結果、その瞬間、瞬間に集中する癖をつけることで、上手に物事を忘れることもできるようになるのだと思います。
最近ではワーキングメモリーが小さい人ほどイノベーティブな発想ができるということが言われています。皆さんも、ワーキングメモリーをスイッチオフしているとき、何も考えずにシャワーを浴びているとき、軽くワインを楽しんでいるときのほうが、発想が豊かになる経験をしたことがあるのではないでしょうか。
今回の話はあくまでも、私流の「集中力」と「忘れる力」の使い方です。大事なこと以外は、辛いこともすべて忘れてしまうので、記憶力はあまりよくないのかもしれません。 そうだとしても、記憶力がよくないというよりも「私には忘れる力がある」「イノベーティブ・シンキングがしやすい」と認識するほうが人生をポジティブに生きる上ではいい考え方ではないかと思います。
窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者であり、会長、社長兼CEO。医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』『「なりたい人」になるための41のやり方』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp