大統領が朴正煕の娘だったから
13年に発足した朴槿恵政権では、最初から慰安婦問題に焦点が当たりました。この件が日韓で政治問題化するうえでは、朝日新聞などのメディアの盛んな特集記事や誤報が大きく作用しました。加えて、軍政の下で抑えつけられてきた人権運動が民主化後の韓国で盛り上がったという側面もあります。これに対し、日本は93年に河野洋平官房長官が謝罪を表明したうえ、財団法人の「アジア女性基金」を設立し、元慰安婦への「償い金」を用意して韓国側に歩み寄ります。しかし、解決には至りませんでした。
11年8月、韓国の憲法裁判所において、「慰安婦問題については、1965年に日韓基本条約と同時に締結された日韓請求権協定で解決されておらず、憲法裁判所の判決に基づき、韓国政府が協定の解釈について日本に対し交渉しなければ、憲法違反にあたる」という驚くべき判決が下されました。この判決をきっかけに李明博政権は追い詰められ、大統領が竹島を訪問して日韓の関係悪化は決定的になりました。
現在の朴槿恵大統領も、自身が女性であることや、日韓請求権協定を結んだ朴正煕の娘であるという事情から、この判決についてナーバスにならざるをえません。日本に対して、驚くほど強硬な態度を貫くのはそのためです。
慰安婦問題に加え、明治期の産業遺産の世界遺産登録で韓国が反対工作を進めたことや、長崎県対馬市で頻発した韓国人による仏像の窃盗などで、日本人の対韓感情はさらに傷つきました。
今後の日韓関係において、重大な政治課題となるであろう問題として、韓国内の裁判で次々と原告側が勝利している、戦時中の徴用工に対する日本企業の補償問題があります。この問題について日本側は、戦時中に財産権を侵害された韓国民間人への補償については、65年の日韓請求権協定で解決済みとの立場です。本来なら韓国政府も日本との条約における取り決めを尊重する立場にありますが、国内での批判を恐れて曖昧な姿勢を取っています。日韓の関係改善は、残念ながらまだ遠いといわなくてはなりません。
1980年、神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学農学部卒業、同大学院法学政治学研究科修了(法学博士)。著書に『シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき』『日本に絶望している人のための政治入門』など。