西側との関係悪化でアジア重視にシフト

「北方領土問題」は日本とロシアの間で、半世紀以上にわたり未解決のままです。しかし、ここにきて第四代ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンが、大きく踏み込んだ発言をしたことが話題を集めました。2014年5月にロシアのサンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムにて、プーチンが「歯舞、色丹の二島だけでなく、国後島、択捉島を含む四島が交渉の対象である」と発言したのです。

これまでロシアは、北方領土は第二次世界大戦の結果得た領土であり、この問題は「決着済み」という立場でした。ところがプーチンは、12年3月に大統領に再選される頃から「日本との領土交渉を引き分けで決着する用意がある」というメッセージを発信しています。また興味深いことに「北方領土はロシアの固有の領土だ」とは一度も発言していないのです。

こうしたロシアの変化を考える際に重要なのが「クリミア問題」です。

13年、ロシアの西側に隣接するウクライナで紛争が起こり、「マイダン革命」の結果、反ロシア派の新政府が誕生しました。これに対抗してロシアは住民投票を実施し、ウクライナ領クリミアをロシアに編入してしまいます。欧米諸国は編入に反対し、ロシアをG8(主要国首脳会議)から追放し、経済制裁を行いました。

西側と折り合いが悪くなったロシアは、日本を含む「東方」に活路を探しています。国際経済におけるプーチンは、「ロシア・エネルギー株式会社の会長」といえます。ロシアにはエネルギー以外にめぼしい産業がありません。アメリカを中心に起きた「シェールガス革命」はヨーロッパにも広がる可能性が高く、さらに西側との関係悪化により欧州市場にはもう頼れない。そこで新たな買い手として浮上したのが、3.11以降、エネルギー不足に悩む日本などのアジアというわけです。

もう一つ、プーチンの日本重視の根拠として北極海航路の存在があります。現在、ユーラシア大陸の東西を結ぶ主要な航路は、マラッカ海峡から紅海を抜けてスエズ運河を通る南回りのルートで、中東の不安定さもあり効率的とは言えません。そこで北回りの航路に期待が寄せられています。この入り口にあるのが北方領土を含む千島列島なのです。このルートの安定は、ロシアのアジアへのエネルギー輸出にとって非常に重要だといえます。

図を拡大
ロシアは「西」との軋轢から、「東」へのシフトを強めている