タレント・政治家の“人権の値段”は一般人の2倍?

実は、これまであまり知られていなかったことだが、冒頭に述べた情勢変化には、政治的な背景があった。

01年当時、森喜朗首相の自民党政権はメディアから激しい批判に曝されていた。森氏の危機感に同調したのが、週刊誌の標的にされ続けていた創価学会と公明党だ。同年3月から5月にかけ、自公両党が衆参法務委員会などで裁判所を突き上げた。

当時、衆議院法務委員会に呼ばれた最高裁判所事務総局の千葉勝美民事局長は、5月16日に次のように答弁している。

「『判例タイムズ』の5月15日号に元裁判官による関連論文が掲載されている」「近いうちに司法研修所で『社会通念に沿った適切な損害額の算定』を含む損害賠償の実務研究会が開かれる予定」

「判例タイムズ」とは、最高裁事務総局が新法解釈や運用指針などについて公式見解を出す際に活用する媒体。裁判官に対しては極めて大きな影響力がある。しかも司法研修所とは、裁判官会議の下に事務総局と並んで設置された部門だが、実態は事務総局の人事局や広報課の下にあるといっていい。その研究会という形であれば、ある程度の肝入りのものであろうということは、裁判官なら雰囲気でわかる。そもそも裁判官は目立つようなことはしないので、自発的に司法研修所で研究会を開くような事態は考えにくい。

5月15日号は4月下旬か5月初旬の発売。書き手が裁判官の場合、常識的に考えると年末年始あたりの執筆依頼でなければ、締め切りに間に合わない。裁判所が同誌に働きかける時間も考えると、その頃にはすでに水面下の動きが始まっていた可能性がある。

その「判例タイムズ」に掲載された関連論文で「名誉毀損損害賠償額として相当」と結論づけられていたのが「500万円程度」だったのだ。

そして、同年11月15日号の同誌には、司法研修所における研究会の結果として「慰謝料算定基準表」なる別紙も掲載された(図2参照)。この表の「社会的地位」の項目には、「タレント等10点」「国会議員・弁護士等8点」「その他5点」といった職業別の慰謝料が点数表示されている。「1点」は10万円、50点なら500万という算定だ。

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図2:名誉毀損慰謝料額の算定基準

これは裁判所による差別である。どうして一般人がタレントの半分なのか。タレントや政治家は人権が2倍あるのか。そもそも、研究会は理屈を考える場、裁判は個別的なもののはずだ。名誉毀損も1件ごとに内容はまったく違うので、マニュアル化することじたいおかしい。

それに、弁護士が名誉毀損訴訟を起こすことは滅多にないから、弁護士を国会議員と並べたのは“目眩まし”だ。タレントと政治家への慰謝料を高くすることが本当の狙いであり、そのスキャンダルを報じる週刊誌にダメージを与えるのが目的だと疑われても仕方あるまい。司法が「李下に冠を正し」てしまったのだ。