穀物にすぎないコメを聖域化してきた日本

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉を巡る日米協議。日本はコメ、アメリカは自動車分野という互いの聖域で激しい攻防を繰り広げてきたが、落とし処が見えつつある。

コメの市場開放についていえば、関税を維持して米国産米の特別輸入枠を設けるとか、関税を引き下げるにしても10年かけて1%ずつ下げる、といったレベルの最終合意になりそうだ。アメリカは議会対策もあるので日本側と生温い妥協点を見出すだろうが、TPPの交渉結果が日本の農業に危機感を与えて改革を促すようなインパクトをもたらすことはないだろう。

かつてのGATT(関税貿易の一般協定)ウルグアイ・ラウンドでコメの市場開放を迫られたとき、日本は778%というコメの関税を維持する代わりに毎年一定量の外米を無税で輸入するミニマムアクセスを義務付けられて、関税も毎年100%ずつ下げて最終的にゼロにすると約束させられた。しかし最終的にはコメの関税は1%も下がっていない。また購入したコメの有効利用方法も見出されていない。

当時の自民党政権はウルグアイ・ラウンド対策として20年間で42兆円という巨費を投じて農業基盤整備事業を行ってきた。しかし日本の農業の生産性も国際競争力もまったく向上しなかった。

世界の相場ではコメは完全にコモディティ化していてトン単位で取り扱われている。キログラム当たりの産地価格は20円程度。日本のコメはキログラム200円以上する。日本のコメの競争力は底の底で、778%というバカ高い関税と減反政策にかろうじて守られてきたのだ。

日本の農業政策の最大の問題点は穀物にすぎない、すなわち付加価値の少ないコメを中心に置いて、聖域化してきたことだ。

戦後直後は農業就業人口の割合は50%を超えていたし、コメ農家も多かった。日本全体が飢えていたから、それでもよかった。しかし食の多様化が進んで、コメの消費量は1963年の約1300万トンをピークに年々減少、今や800万トンほどしかない。