「フードバレー」と呼ばれる産業クラスター
オランダ農業の3つ目のシフトが「イノベーション」である。現在のオランダの農業は大規模なガラスハウスなどを活用した施設園芸が中心で、オランダ国内の5カ所に生産者、研究機関、関連企業が集積した、「グリーンポート」と呼ばれるクラスター(集団)が形成されている。そこで展開されているのがITを活用したスマートアグリだ。
たとえば大規模施設園芸では天然ガスで発電して、排出される「熱」はハウス内の暖房に、「CO2(二酸化炭素)」はハウス内の植物の光合成に利用されている。もちろん「電力」は施設の動力として活用されるが、余剰分は売電する。火力発電中心のオランダでは全発電量の10%が農業事業者による発電で、売電は農業経営を支える重要な事業であり、「半農半電」といわれるほどだ。
オランダには温室環境制御システム開発や温室設備の世界的なメーカーが揃っていて、農作物ばかりではなく、各種の農業生産技術やシステムなどスマートアグリ設備を世界に輸出している。
オランダ農業のイノベーションの推進役を果たしてきたのは、ワーヘニンゲン大学を中核とした、「フードバレー」と呼ばれる農業と食品の産業クラスター。フードバレーには食品関連企業約1400社、科学関連企業約70社、そして約20の食品関連の研究機関が集結、約1万人の研究者によって多様な研究・事業化プロジェクトが行われている。
日本からはキッコーマンや日本水産、アサヒビールやサントリーなどが参画。また種苗分野の研究開発も強く、種子クラスターの「シードバレー」もあって、フードバレーとも綿密に連携している。
こうした最先端の研究開発と農業関連企業、現場の生産者をつなぐ存在が「農業コンサルタント」で、技術指導などでイノベーションを現場の成果に結びつける重要な役割を果たしている。
自由化、集中と選択、そしてイノベーションの結果、オランダ農業は劇的に変わった。穀物生産から脱却して、付加価値の高い農産物に特化したのだ。結果、広大な農地を活用して小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物を大規模生産するボリューム型の農業大国とは対極的な、クオリティ型の農業先進国に生まれ変わったのだ。
次回、日本の農業はオランダモデルから何を学ぶべきなのか、考えてみたい。