国相手の裁判になったら沖縄に勝ち目はない
沖縄県の米軍普天間基地(宜野湾市)を辺野古(名護市)に移設する問題をめぐって、政府と沖縄県の対立が深まっている。昨年11月の知事選で、辺野古沖の埋め立て申請を承認した現職の仲井眞弘多氏が敗れ、辺野古移設反対派が全面支援した翁長雄志氏が当選した。続く12月の衆院選では県内4つの小選挙区すべてで移設反対派の候補が勝利、自民党候補は比例区での復活当選に回ることになった。
しかし永田町に就任挨拶に訪れた翁長知事は安倍晋三首相以下、主要閣僚から面談を拒まれ、さらには財政難を理由に2015年度の沖縄振興予算が減額されるなど、辺野古への移設作業が進まない沖縄に対して政府は圧力を強めてきた。3月には辺野古沖の海底ボーリング調査を再開、夏に着工予定の本体工事に向けた動きを加速させている。
一方、第三者委員会による埋め立て承認手続きの検証が終わるまでボーリング調査を行わないように政府に要請していた翁長知事はこれに強く反発。ボーリング調査のために投入したコンクリートブロックがサンゴ礁を破壊した可能性が高いとして、現場調査の名目で移設作業を停止するように防衛省沖縄防衛局に指示。従わない場合、移設作業の前提になる「岩礁破砕許可」(昨年8月に仲井眞前知事が認可)を取り消す考えまで示した。
すると今度は防衛省が「停止指示は不当」として、関連法を所管する農林水産大臣に(行政不服審査法に基づく)審査請求を行い、併せて審査結果が出るまでの間、県の指示の効力をストップするための「執行停止」を申し立てた。これを受けて、林芳正農水相は暫定的に県の停止命令の効力を停止する決定を下した。翁長知事の停止命令が正式に無効かどうか、引き続き農水省が審査して裁定を下すことになるが、政府の意向を踏まえた裁決になる可能性が高い。
その場合、翁長知事サイドが移設工事を止める手立ては、裁決の取り消しや工事の差し止めを求める訴訟を起こすぐらいしかない(審査請求が棄却された場合、逆に防衛省が岩礁破砕許可取り消しの無効確認を求める行政訴訟を起こすこともありうる)。だが、国相手の裁判になったら沖縄県に勝ち目はない。そもそも辺野古移設は国の安全保障や外交に絡んだ国政案件であって、憲法第8章(地方自治)にもあるように(沖縄)県は国から委託された種々の事務作業を行っているに過ぎない。一地方自治体の一首長の判断で右から左には動かせない。翁長知事もそれは重々承知していると思う。