商社中心に「日本版カーギル」形成も

日本や米国など12カ国が交渉している環太平洋経済連携協定(TPP)が決着した場合、もっとも直接的な影響が出るのが農業分野だ。政府は、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の原料になるサトウキビなど5項目(586品目)を「聖域」と位置付けて関税撤廃に抵抗しているが、これらの関税が「全面撤廃」された場合、政府試算だと農林水産物の生産額が約3兆円減少する。

具体的にどのような影響が生じるだろうか。コメの場合、関税を撤廃してもすぐに輸入が急増する事態にはならない。国内で消費される「短粒米」を供給できる国は、TPP交渉参加国の中では米国やオーストラリアに限られており、輸出余力が限られているからだ。

しかし、中期的には、日本市場向けのコメを海外で生産する「逆輸入」の動きが出てくる。しかもその主力は米国ではなく、人件費や農地が安く、二期作が可能で、アジア・モンスーン型の気候であるベトナムの可能性が高いとみる。日本の種子や技術や資本を使い、日本の市場に合わせた生産が始まる。衣料品の分野でユニクロが取り組んできたこととまったく同じことがコメでも起きるということだ。

高品質で低価格のコメの輸入が現実になれば、米価は大幅に下落し、主食の価格に連鎖する形で食料品価格は全般に押し下げられ、消費者はメリットを享受できる。一方、現在ほぼ100%を維持している主食用コメの自給率は大幅に低下するだろう。食料安全保障上の観点から、ある程度の国内生産を維持するため、保護政策の再構築が不可避となる。

畜産分野でも同様の事態が起きる。現在でさえ、日本の大手食肉メーカーはオーストラリアなどでの現地生産を拡大し、ソーセージなどに加工して日本に「逆輸入」しており、関税が撤廃されれば、これまですみ分けていた黒毛和牛のような高級品分野でも、日本の資本・技術による現地生産が増え、「豪州産和牛」という少し紛らわしい表示の肉が逆輸入されてくるだろう。