オランダは九州程度の面積しかない

オランダの農業関連施設を視察する安倍晋三首相(2014年3月)。(写真=AP/AFLO)

安倍政権は成長戦略に農業改革を掲げ、今後10年で農業所得を倍にするという。しかし、時間と補助金をかけて小出しに市場開放しても、再生できないことは実証済み。やるなら2年なり3年なり猶予期間を決めて、一気呵成に進めるしかないと私は考える。

市場開放の結果、国際競争に敗れて一時は壊滅的な打撃を受けながら復活を果たした産業といえば、(セイコーとシチズンにやられた)スイスの時計、(日本の繊維産業にやられた)イタリアのアパレル、フランスのブランド品などを思い浮かべやすいが、農業にも好例がある。オランダである。

九州程度の国土しかないオランダが世界第2位(11年)の農業輸出国であることは案外知られていない。農業輸出額1位はアメリカで、3位がドイツ、以下、ブラジル、フランス、アルゼンチンと上位は国土の大きい農業大国ばかりで、農地面積が限られたオランダの奮闘ぶりが際立つ。ちなみに日本は57位で、輸出額は10兆円を誇るオランダの30分の1ほどしかない。

実は30年ほど前の86年にポルトガルとスペインがEC(欧州共同体)に加盟した際、オランダ農業は危機的状況に陥った。安価な輸入農産物が国内に流入するようになったからだ。そこからいかにしてオランダ農業は再生し、世界最強の農業輸出国へ変貌を遂げたか。同じく農地面積が狭く、TPP前夜を迎えている日本にとっては大いに参考になるはずだ。

オランダは農業の競争力を強化するために3つのシフトを断行した。まず1つは「自由化」だ。農業保護をやめるとともに、日本の農林水産省に当たる農業・自然・食品安全省を解体して経済省(日本でいえば経済産業省)に統合して、農業部、酪農部、水産部という3つの部局に編成し直した。農業も産業だというなら考えてみれば当たり前のことだが、これまた今の日本では想像することさえ難しい英断だ。さらに公的機関(DLV Plant社)による農業指導事業を民営化している。要するに農業を産業の1つととらえて、「競争力のある強いものだけが生き残るべし」という方針を打ち出したわけだ。

2つ目が「選択と集中」である。生産品目を高付加価値品目にシフトして、農地を集約化。現在ではトマト、パプリカ、キュウリの3品目で施設野菜の栽培面積の8割を占めている。

農家のサバイバルと大規模化が進み、農業の経営体数は80年には15700社あったものが、10年時点では7100社に半減している