「騙されていても構わない」という心境

木嶋佳苗●2009年、会社員の大出嘉之さん(当時41歳)の遺体が車内で発見、体内から睡眠導入剤の成分が検出され、練炭自殺に見せかけて殺害したとして逮捕された。一審では、男性3人への殺人、詐欺等で死刑判決、二審も判決を支持、不服として即日上告した。(写真=AFLO)

和田教授は「ただ、人間というのは、長年連れ添った伴侶を失ったばかりとか長年独身で寂寥感に苦しんでいると、やさしくしてくれる相手に引き寄せられてしまう。実は、そんな人は世の中にうなるほどいると思う。置かれた境遇によって人間の心理や認知構造は変わってしまう」と話す。

筧被告と木嶋被告は、そこを実に巧みに突いているわけだ。メールでの楽しい会話、男性宅に通っての手料理、それに加えてセックスなど、たちまちのうちに男性を虜にしてしまうだろう。こうなるともう、男性には歯止めがかからない。女性の言いなりになってしまうはずだ。

あるいは、彼女たちと一緒にいて、途中からは騙されていると気づいた被害者もいたのではないか……。だが、彼らは、それでもかまわないという心境になってしまったのだろうと黒川氏は指摘する。

「たとえ不美人でも寄ってきたら『はい、はい』と何でも聞いてしまうような緩さが男には体質的にある。筧被告の場合、身の回りの世話をどこまでしたかわからないが、そうした状況になると、多少財産はかすめ取られてもいいと考えても仕方ない」

ここに、後妻業や婚活詐欺の怖さがあるといっていい。被害男性も、それなりの社会経験はしてきたはずだ。もう女性には縁はないと思っているところへ積極的に近づいてくる。なにが目的なのかと疑うぐらいの冷静さはあってもいい。しかし、そんな被害者たちの壁は簡単に崩されている。

では世の中の男性は、筧被告と木嶋被告のような女性にどう対処すればいいのか、いかに自分の資産と生命を守ればいいのかを考えてみたい。オーソドックスな方法を越智教授が語る。

「特に高齢の男性に伝えたいことは、若い女性にコロコロとついていかないこと。何より自分がそんなにもてるわけがないということを自覚しておいたほうが無難だ。そう思っていれば、自制も働く」