「捨て」なければアイデアは出ない
見切りの大切さは、同社が苦境に陥った1998年、鈴木氏の社長就任の際の挿話からも窺える。「聖域なき改革」をぶち上げ、約860あった品種の削減とともに「不良在庫をすべて捨てろ」と大号令。物流センターにみずからの車で乗り付け、商品ケースをぶん投げるパフォーマンス。同社の業績回復はそこから始まった。
「責任を問われるのを恐れて、誰も捨てようとしない。『在庫処分は社長の責任だ』と言っても動かないから、実力行使に出たんです。いい加減に、荒っぽくやらないと。精緻に難しく考えていては、一つも削れません。捨てなければ会社じたいが重たくなっちゃって、一歩も前に進めないんですわ」
捨てれば脳みそに“スキ間”ができる。捨てなければ、アイデアなんて出っこない……見切りの巧拙は、アイデアが出るか否かにも直結するのである。
それだけに、絶えずナマ情報の入れ替えを行うことは必須だ。
「初めての人に会うことが凄く大事。努力しなければそういう機会はつくれません。同じ業界の人はだいたい発想も同じで、会っても進展がない。違う業界の人と会うと頭が活性化しますね」
鈴木氏は今も帰宅時に電車を途中で降り、ドラッグストアやスーパーを回る。客を装い、「どんなものが売れているの?」「どうしてそれを買ったの?」と買い物客や店員に聞く。じっくり聞きたいときは名刺を出す。驚かれるが、たいていは面白がって話してくれる。女性たちに話を聞くため、散髪は美容院で行う。情報を得続けるのは、常に捨て続けることと表裏一体だ。
ここにきて同社が仕掛ける新商品が、北海道のトドマツの林地残材を有効利用した空気浄化剤「クリアフォレスト」。
「7年前から山小屋を所有していますが、山の中にいるとなぜか元気になる。秘密を探るうちにこの研究にたどりついた。そこで、まず先にクリアフォレスト事業部を立ち上げたんです」
トドマツの葉から採れる「機能性樹木抽出液」は、車の排気ガスやたばこの煙が含む二酸化窒素(NO2)を除去する働きを持つ。「来年は環境汚染に悩む中国・北京市に乗り込み、テレビ局を使ってハッタリかまそうかと思ってます。いつもこうした誇大妄想から始まるんです(笑)」――常に頭を使い続ける。“捨てる”ときはシンプルに。過去の反省はしない。そんなライブ感溢れる“おっちょこちょい”こそ、斬新なアイデアの創出とそれを実現する人の条件だ。