「シニア・チェアマン」として貢献できること

『グッドリスクをとりなさい!』宮内義彦著(プレジデント社)

昨年6月、私はオリックスの会長兼グループCEOを退任しました。

1964(昭和39)年の会社設立から半世紀もの時をオリックスという一企業で過ごし、1980(昭和55)年の社長就任から33年間にわたってトップを務めてきました。

年月をかけて培ってきた経営者としての判断力を、会社の発展のためにもうしばらく生かしたいという気持ちも強かったのですが、オリックスが創立50周年を迎えるのを機に、元気なうちにCEOの職を後継者に託し、経営の助言役に回ったほうがいいだろうと退任の決断をした次第です。

CEOから退いた私は、「シニア・チェアマン」という新しい肩書を得ました。「シニア・チェアマン」とはどんなポジションなのか? ことあるごとに人から尋ねられますが、正直なところ私自身もよくわかっていません。いわば「前人未到のポジション」であり、役割や職能がはっきりしていないことで、今までとは違った立場で会社に関わることができるものと期待しています。

そこで、これからは今までとは違うスタンスで、あまり手がけてこなかったことに力を注いでいきたいと思っています。やりたいことはいろいろとあるのですが、まず念頭に浮かぶのが、若い世代に向けて自分が今まで培ってきた経験や知識を伝えることです。

もともと私は、社員に対して手取り足取りで何かを教えるということに、あまり熱心ではありませんでした。本書『グッドリスクをとりなさい!』でも触れていることですが、「会社は教育機関ではない。勉強は自分でするもの」との思いが強くあったからです。しかし、経営の一線から退き、現場を支えている中堅より下の世代に視線を転じてみると、やはり伝えるべきことをきちんと伝えていかなければ、という気持ちになったのです。