ただ、一つ、必ず切り替えていることがある。在職期間に長短はあるが、ローソンは、大学を出てから5つ目の会社。よく、外部から社長に就くと、元の部下や秘書を呼び、周囲を固める例がある。それは、やらない。チームづくりは、常に一から始める。そうでないと「景従雲集」は起きない。

社長になっても、ボトムアップとトップダウンのバランスは、忘れない。ときどき、店舗の指導や相談事を担当する若いスーパーバイザーを、5、6人ずつ集め、夕食会を開く。店巡りに充てられる時間が減り、現場の情報が届かなくなることを防ぐ。アンテナを立て続け、好機の糸口や危機の兆候をつかむ。何か感じれば、すぐに関係者を集めて意見を聞き、必要に応じてチームを立ち上げる。

スピーディーな決断は、M&Aや有力企業との提携でみせる。社長就任以来の半年余りで、映画事業などを展開する企業の買収、高級スーパーの買収、他のコンビニチェーンへの資本参加、世界的なネット通販会社との協業と、いつ交渉する時間があったのかと思わせる速さ。その地ならし役ができる部下たちがそろっているのも「景従雲集」だからだろう。

とくに同調者が増えてほしいのが、「中嶋農法」の普及だ。土壌診断にもとづく良好な土づくりと健全な生育を維持する技術によって、土壌と作物のミネラル類のバランスをとり、生育状態に即した栄養補給を行う農法。商標と開発した肥料の特許などを持つ会社を13年夏、買収した。食の「安心・安全」が最も注視される時代に、ぐっと胸を張れる領域だと自負し、直系農場での導入ばかりでなく、店頭で売るカット野菜の供給農家にも参加を呼びかけている。

安心・安全で高品質な野菜が増えれば、例えば「まちかど厨房」でも使える。そうした進化も、新サービスやM&Aから生まれてほしい。40代半ばでユニクロの社長を務めたとき、次々に外部から人材を採用し、組織の中にそんな「化学反応」を起こし、進化をしていく過程をみた。もちろん、玉塚流は全く同じではないが、ボトムアップもトップダウンも「化学反応」を呼ぶための道。しかも、王道だと思っている。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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