現場の声を拾い全国に広げていく

ローソン社長 玉塚元一
1962年、東京都生まれ。85年慶應義塾大学法学部卒業、旭硝子入社。97年ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院修了、98年サンダーバード大学大学院修了。98年12月ファーストリテイリングに転じ、2002年社長。05年リヴァンプを設立。10年ローソン顧問に就任、11年副社長。14年5月より現職。

2012年3月、東京・大森の店を訪ねた。オーナーは、複数の店を持ち、事業家としてローソンと向き合うマネジメントオーナー(MO)の一人。話をすると「みていると、競争相手の店にある弁当やおにぎりのほうが、消費期限が長い」と指摘する。「うちの商品の鮮度を、もっと保つことはできないのか」と注文もされた。

すぐに、本社のチームに話をつなぐ。ただ、保存料を使って長持ちさせるのでは、消費者の求める方向からはずれる。チームは、専門家の意見も聞きながら、お客に支持される改善策を練った。例えば、急激に冷やすと傷みやすい食材は、空気を循環させながらゆっくり温度を下げていく。半年後、鮮度をより長く保つことができる惣菜が、店頭に並び始めた。

組織の強さは、チーム力の発揮にある。チーム力は、リーダーが上から戦術を説くトップダウン式だけでは、強くならない。メンバーの意見を聞き、それを吸い上げるボトムアップ式もなくては、高い壁は越えられない。消費者と直接向き合う事業、とくに小売業では、トップダウンとボトムアップのバランスが大切だ。

ローソンに入る前に多様な事業に触れ、そう確信した。だから、店舗巡りは、1年余り前にローソンの顧問に就任して以来、副社長になってからも続けた。MOに代表されるオーナーたちは、いわば運命共同体。まさに、もう一つのチームだ。ひたすら店を回り、現場の声を聴く。

まず、オーナーや従業員のチームが挑戦し、成功させていることに注目する。1万2000店あれば、事例はたくさんある。その中に、ほかの店でもやってほしいことが、いくつもみつかる。それをすくい上げ、応援し、他店でもできる仕組みをつくる。その姿勢を貫けば、彼らの信頼も集まり、批判や提案も率直に出てくる。

人気商品となった「黄金チキン」も、その一例。「玉塚さん、やってみよう」。そんな声に、同調者が広がった。新しい商品やサービスばかりではない。「危機」の未然防止につながることも、そういうなかから生まれる。