メモを取ることでのコミュニケーション
現場で仕事をしていた頃から、メモを取るためのツールとしても手帳は手放せませんでした。記憶力がいいほうではないので、まずメモを取る。ですから小さい手帳はあまり好きではありません。いろいろ書き込むスペースがある大きな手帳が好みです。
昔は電車の中吊り広告でインパクトのあるコピーを見かけたら必ずメモするようにしていましたし、移動中に読んでいる雑誌や本で気の利いた言葉や気に入った言い回しを発見したらメモに書き込んでいました。手帳にメモ書きを残しておくと、記憶を辿るとき非常に便利です。
先日、1週間の欧州出張がありましたが、出張のスケジュールにもいくつかカギをかけて、オランダのデルフト焼きの工房やゴッホ美術館などを見学してきました。旅行会社は特に売るものがありません。無から有を生み出すのが私たちの仕事です。常にアンテナを高くして時代の空気や流れを感じ取らなければいけない。オンとオフを問わず、どこでも観察力と感性を磨くべきだと思っています。〝気づき.がヒントになって新しい商品や企画が生まれ、メモ書きによってすきま時間やオフタイムに浮かんだアイデアが呼び起こされます。
人と話をしているときでも、私は必ずメモを取ります。最近は地方に出張して、シンポジウムやディスカッションに参加したり、昼食会で現地の方々とお話しする機会が非常に増えました。あまりにたくさんの人とお会いするので、誰と何を話したのか、つい忘れてしまう。
日本人は人前でメモを取るのは相手に失礼だと思っている節がありますが、欧米の経営トップやビジネスマンは平気でメモを取っているものです。私の場合、相手がメモを取っているのを見ると、「ああ大事なことを理解して書いてくれているんだな」と思うし、逆にメモを取らないと「大事なことなのに、なぜメモを取らないのだろう」と感じます。
メモを取ることで相手とのコミュニケーションが重層化する側面があるように思います。キーワードだけでも書いておくと随分違うのではないでしょうか。
前述の欧州出張ではオランダのアムステルダムの隣町、アムステルヴェーンで市長との昼食会がありました。そのときも、胸ポケットに忍ばせておいたメモ用紙が役に立ちました。じつは出張中、ロンドンのホテルに宿泊したときに、ホテルのメモ用紙が大変洒落ていたので何枚か折りたたんでポケットに入れておいたのです。
市長が何かいいことを言うたびにいちいち大きな手帳を開いて書き込んでいたら仰々しいし、相手も構えてしまって気安い話もできない。メモ用紙を取り出して走り書きする程度なら、会話のテンポも崩れません。アムステルヴェーンは日本の企業を30社近く誘致しており、市長は学生レベルの交流会を進めたいとのことでした。書いたメモは手帳に挟んで持ち帰り、帰国後に担当の部下に伝えておきました。都市との交流も私たち旅行会社の大事な仕事です。
経営者の仕事はさまざまなレベルのコミュニケーションを増やして情報を得て、それを社員や部下に伝達し、ビジネスとして現実化してゆくことだと思います。そのプロセスでは「伝える」「連絡する」ことが重要な意味を持つ。ですからメモ書きは絶対に欠かせませんし、手帳はそのための一番手軽で大切なツールでもあるのです。