あらゆることを手書きで書き込む

<strong>住友林業 矢野龍社長</strong>●1940年、旧満州(現中国東北部)生まれ。63年北九州大学外国語学部卒業、住友林業入社。アメリカ・シアトルに2回、合計10年間の駐在経験を持つ。86年海外第一部長。88年取締役。92年常務。95年専務。99年社長。2002年より執行役員社長。
住友林業 矢野龍社長●1940年、旧満州(現中国東北部)生まれ。63年北九州大学外国語学部卒業、住友林業入社。アメリカ・シアトルに2回、合計10年間の駐在経験を持つ。86年海外第一部長。88年取締役。92年常務。95年専務。99年社長。2002年より執行役員社長。

わが社には全社員が携帯する社員手帳があります。私がふだん愛用しているのは、その社員手帳です。

冒頭に「経営理念」や「行動指針」を掲げ、巻末の資料欄には「会社概要」から「主要樹種」「建築基準法」等々まで、社員が仕事の場で実際に活用できる内容になっています。

私は、新入社員の入社式でも、新管理職を相手にした会議でも、一般社員との意見交換の場でも、常にこの手帳を手に話をします。なぜなら、この手帳に記してある「公正、信用を重視し、社会を利する事業を進める」という「住友精神」や、「自然を愛する企業として(中略)環境保全と調和のとれた活力ある企業活動」といった「環境理念」、および、それらに沿った具体的な「木材調達方針」や「行動原則」等を、社員一人一人がしっかり頭に叩き込んでほしいからです。「これは我々の座標軸だ。もし仕事で迷いが生じたら、これを読んでくれ」と、いつも強調しています。

社員手帳は、社長から新入社員まで、同じ言葉を通して考え方を共有し、常に原理原則を振り返って確認するための非常に有効な経営ツールだと考えているのです。では、その社員手帳を、私自身はどのように使っているか。

日程欄(左の1ページで1週間。右ページはメモスペース)は、当然ながらスケジュール管理に使っています。もちろん予定は秘書が管理していますが、私は公私にわたるあらゆる予定を手帳に書き込んで、時間の流れを自分で日単位、週単位で頭に入れておくようにしています。そのほうが時間をより有効に使えるからです。

秘書にスケジュール調整を任せる際は、たとえば人と会う案件なら背景を詳しく説明します。会う理由、背景を伝えたうえで段取りを組んでもらうのです。

私の手帳の日程欄は正月から仕事で埋まっています。全国に約320の住宅展示場がありますが、そこは正月、連休、お盆、週末など、人々が休みのときほど忙しいもの。だから営業マンを激励して回るのです。住宅本部長時代は、毎週土曜・日曜はすべて展示場、営業支店回りで年間の休日は4日間だけなどということもありましたが、最近は週末のどちらか1日は休むようにしています。

私にとって社員手帳のもう一つの役割は、メモ帳としての機能です。あらゆることを手書きで書き込みます。

たとえば、2009年6月4日に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行されましたが、同日付の右ページのメモスペースには、その認定基準など法律の内容を書きとめます。巻末のフリーメモページには、日本の総世帯数、空き室率、住宅各社の平均坪単価や平均建坪数、ゴルフのプロから聞いた経営にも役立ちそうな話……等々、その時々に入手したデータや大切な情報、感心した言葉などを書き込んでいます。

手書きすることで頭に入りますし、それが経営の判断にも結びつくことがあります。また、それらのメモは、日本木造住宅産業協会の会長など業界の要職にある者としてスピーチを求められた際にも役立ちます。毎年、メモ欄が足りなくなるほど、様々なことを記入しています。

森林の育成と同じで、何事も時間をかけた積み重ねが大切。地道ですが手書きメモを続けていることが、経営上の発想や判断にも繋がっていると思います。

(小山唯史=構成 佐粧俊之=撮影)