種まきでは、お客に新たな価値を提供するイノベーションを興したいと思い、企業買収も打ち出した。新たな機種を売るだけではなく、お客が持っている製品を使い切るまでの費用を減らすため、コマツに何ができるのか。そこに、次のビジネスチャンスがある、とも呼びかけた。

確かに、いまは国内外とも苦しい要素が多いが、世界の人口が増え続けるなか、土地を拓き、資源や土砂を運び、道路を通す仕事は増えていく。ならば、土木や建設の機械も、鉱山機械も、間違いなく伸びる。焦る必要はない。種をまくと、すぐにも刈り取りたくなるが、急がず将来に備えれば、後の人たちが楽になる。社員たちを信頼し、そこをていねいに説き、ベクトルを揃える。やはり、大切なのは「惟賢惟徳」だ。

粟津工場から近いJR北陸本線の小松駅東口に、研修施設や里山など自然教育施設を備えた「こまつの杜」が、創立90周年を記念して3年半前に開園した。駅に近い屋外にダンプトラックも展示した。高さ7.3メートル、重さは502トン、積載量は297トン。世界最大級の「930E」だ。

ピオリア工場の製品で、南米チリの銅鉱山から運んだ。毎日、午前と午後に子どもたちが試乗できる。3階建て家屋とほぼ同じ高さに登ると、巨大さを実感する。大学時代に「動くもの、それもでっかいものをつくりたい」と思い、入社した。自ら組み立てることはできなかったが、夢は、別の形で実現した。その夢を思い出す場だが、子どもたちにも夢を抱いてほしいと願う場でもある。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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