開発と生産が並行「サイマル」の挑戦

コマツ社長兼CEO 大橋徹二
1954年、千葉県市川市生まれ。77年東京大学工学部卒業、コマツ入社。82年スタンフォード大学大学院工学部計数工学科留学。2004年コマツアメリカ社長、07年コマツ執行役員生産本部長、08年常務、12年専務。13年より現職。

道路の整備に活躍するモーターグレーダー、土木現場で土砂を積み込むホイールローダー、鉱山や採石場から鉱石や原石を運び出すダンプトラック。脇に立つ人間が小さな人形のようにもみえる巨大な建設・鉱山機械が、一つの組み立てラインの上を、少しずつ移動する。その間隔が、機種によって、かなり違う。

2001年10月、47歳で栃木県にある真岡工場の工場長になった。3年ほど前から始まった全社の工場再編で、埼玉県・川越と新潟県・柏崎の工場から、いくつかの製品の生産が真岡に移管された。もっと前に神奈川県・川崎から受け入れた製品もあり、もともと真岡でつくっていた分を含めて5つもの機種を、組み立てていかなければならなくなる。でも、それぞれの作業は大きく違う。

建屋はもともと倉庫で、そう広くない。だが、日本経済の停滞が長引くなか、会社に勢いがなかった時期で、新たな建屋を立てる余裕はない。では、どうするか。同じラインでの生産案には、社内の多くが「無理だ」と言った。それぞれ、大きな部品をクレーンでつり上げ、組み立てる時間には差がある。一様にラインへ流したらあちこちで渋滞が起きてしまい、効率がひどく落ちる。でも、高く目標を掲げ、根本的なことから考えていけば、可能なはずだ。

入社したら、設計の仕事がしたいと思っていたが、不本意にも生産管理部門を歩んだ。だが、次々に新プロジェクトに携わり、「ものづくり」の現場の面白さに引き込まれた。何か課題が出ると、開発や設計の面々と現場で意見をすり合わせ、品質や生産効率を上げてコストを下げる。何事も「ものづくり」の基本に立てば、困難そうにみえる問題も解決できた。

5つの機種を同じラインで組み立てる課題も、答えはほどなく出た。生産課題の根本に戻れば、とるべき方法はみえた。作業の一つ一つに必要な時間、作業者が無理なく動けるスピード、難易度が高い作業でのゆとりなど、機種ごとにはじき出し、それに合わせてラインに乗せる間隔を調整する。月間に140台から150台の「少量多品種」の生産を、一つの流れに仕上げた。当時、真岡は赤字続きだったが、増えた機種を需要に応じてうまくこなし、再編2年目に黒字に転換させる。