略語に集約させた生産現場での確信

77年4月に入社。研修などを経て、9月に粟津の生産管理課に配属された。想定外の部署だったが、留学のほうは入社6年目に選ばれて、2年間をもらう。米スタンフォード大学院で、第二次世界大戦中に発展した数学的な作戦手法を経営に応用した「オペレーションズ・リサーチ」を専攻。「人生でいちばん勉強した」と言えるほど打ち込んだら、1年で修士号が取れた。残る期間を遊んでいるわけにもいかず、もう一つ情報工学の修士号も取って帰国する。

帰ったら研究所へいくことになっていたが、「円高で、英米で現地生産を始める。拠点づくりをやってくれ」と言われ、本社の生産管理部へいく。英国はイングランド、米国はテネシー州に同じような油圧ショベルを生産し、規模も同様の姉妹工場を立ち上げ、大阪や粟津から生産を移管する作業。何度も出張し、英国では建屋を買い、工場の改装を指示し、何万点もの部品調達から不具合が出た場合の対応まで、すべての仕組みをつくっていく。

英国工場が立ち上がると、89年10月に自ら出向した。妻と3人の子どもも同行する。直後に欧州は不況に陥り、赤字が続く。会社は「欧州市場がこう伸びて、我々のシェアもこう伸ばす」という右肩上がりの計画を立てたが、順調にはいかない。計画が崩れ、人員や設備の適正化や原価管理など基本的な点からメスを入れて、黒字化を実現する。ここでも、やはり「本立而道生」だった。

2013年4月、社長兼CEOに就任。社長になると、社員ミーティングなどで、若い社員と話す機会が増えた。課長級とは、自由に議論する場もある。そういうときに、「SLQDC」という略語を使う。Sは「安全」のSafety、Lは「法律」のLaw、Qは「品質」のQuality、Dは「納期」のDelivery、Cは「コスト」のCostだ。

開発機能も持つマザー工場は、同一の機種を生産する世界中のチャイルド工場の「SLQDC」に責任を持つ。社内ではそういう意味で使われているが、10年余り前に真岡工場で使い始めたころは、部下たちに物事の基本を把握させるために繰り返した。そして「Sができれば、Lができる。Lができれば、Qができる。Qができれば、Dができる。Dができれば、Cができる」と説いた。普通は、品質、納期、コストの3つが挙がるが、いまや安全、そして法律順守が大事な時代。とくに後者は、社会とのつながりを大切にすることを意味し、最重要とも言える根本的な要素。そう確信しているから、自然に口をついて出る。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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