全員での合意は全員で取り組む

縦割り組織の壁を崩し、設計者たちの力量を上げていく。5月、東京のコマツ本社でKACの再建に関する会議が開かれ、「Mプロジェクト」の状況や今後の計画が報告されて、了承される。会議には品質保証担当の部下を派遣し、まだ夜中のシカゴから音声会議システムで参加した。翌日、KACの全員に、過積載を防ぐ方策を発表する。その内容も、全部門会議で話を聞いて、みんなで決めた。だから「全員が合意したことは、全員で取り組もう」とも呼びかける。米国流の企業文化に、大変化を促した瞬間だった。

「惟賢惟徳、能服於人」(これ賢これ徳、能く人を服す)――聡明さと身に付いた品性こそが、人を心から納得させて従わせる、との意味。中国の『三国志』にある劉備の言葉で、いくら上の地位にいても、部下たちへの謙虚さや信頼感がなければみんなは動かない、と説く。価値観や慣習が違う外国人社員にも、ていねいに接し、信頼して説き続けて浸透させていく大橋流は、この教えと重なる。

ピオリア工場は、赴任して3年目に黒字となり、その後、世界的な資源開発ブームで開花した。単に運がよかっただけだとは思うが、「地道に改革をやり続け、少しずつでも改善していけば、やっぱり風が吹くものだ」とも感じた。

本社の社長になる前年の2012年4月、事業戦略などの担当専務となり、新中期経営計画を策定した。世界的に需要が厳しい期間だとわかってはいたが、厳しいときでも下を向いてはいけない。将来を支える事業の種まきや前向きな構造改革も、必要なものは、すべてみんなでやろうとの意味を込め、計画を「羅針盤」と呼んだ。