感動を生むサービスの極意とは
情報に関する仕組みの中でもとくに重視したいのは、事例を共有する仕組みです。マニュアルを整備している企業は多いですが、事例を共有する仕組みを持っている企業は案外少ないものです。私はその差がCS優良企業とそうでない企業の分かれ目になると考えています。ちなみにディズニーには作業手順書としてのマニュアルはありますが、サービスのマニュアルは存在しません。
なぜサービスのマニュアルが存在しないのか。それは、マニュアル対応からは顧客を感動させるサービスが生まれないからです。
ディズニーランドには、毎年約3000万人のゲストがやってきます。3000万人いれば、その数だけ感情も存在しています。それを無視して一律でサービスを提供しようとすると、ゲストの感情とズレが生じて、感動を生むどころか不満足につながります。
「家族連れのお客様には、こう対応する」、「カップルには、あのサービスを」というようにマニュアルをきめ細かく決めていけば、顧客の感情に多少は対応できるかもしれません。しかし、それでも限界はあります。実際に現場に立てばわかりますが、顧客の感情は、いくつかのパターンに類型化できるほど単純なものではありません。
たとえばひとくちにカップルといっても、2人の関係にはさまざまな違いがあります。初デートなのか、つきあってから長いのか、普通のデートなのか、喧嘩中で仲直りのためにやってきたのか、それとも何かの記念日なのか。そうした違いを無視して、「カップルだから写真を撮ってあげると喜ばれるはず」とマニュアル的な対応をすると、そっとしておいてほしかったカップルは「余計なことをして」と不満を感じるでしょう。
サービスは想像力です。目の前のお客様はいまどのような状況にいて、無意識のレベルも含めて何を求めているのか。一人一人違うニーズに想像をめぐらせて、その都度、最適と考えられるものを提供していく。それが感動を生むサービスの極意です。
では、一人一人違う感情を想像するには、どうすればいいのか。そこで役に立つのが過去の事例です。目の前の状況とまったく同じではないものの、「以前、似た状況でこうしたら喜ばれた」、「前に似た状況だったときは、女性ゲストのほうが積極的に関心を示してくれた」などの事例があれば、今回の状況にもっともふさわしいサービスを推測する助けになります。