「顧客の立場で」「他店は見るな」

田原総一朗氏

【田原】日本のセブン-イレブンはコンビニ事業を成功させていったのに対し、本家のアメリカのほうは90年代初めに経営破綻し、鈴木さんが再建に乗り出すことになる。破綻の原因は何だったのでしょう。

【鈴木】コンビニはもともと24時間営業のタイムコンビニエンスの利便性が強みでした。これに対し、アメリカでは80年代にスーパーも24時間化を進め、ディスカウント戦略を強化しました。コンビニ側もこれに追随した。結果、熾烈な価格競争に巻き込まれ、収益が悪化。サークルKなど他の大手チェーンも危機に瀕し、マスコミや学界から「コンビニ時代の終焉」を宣告されるまでに至りました。ただ、私は終焉説を鵜呑みにはしませんでした。

【田原】鈴木さんは、どうやって破綻した経営を復活させたのですか。

【鈴木】破綻の原因は、安易にディスカウントに流れ、消費者の生活に馴染んだ経営をしていなかったことです。例えば、本部が安く大量に買い込んだ商品を各店舗へ需要とかかわりなく押し込む。あるいは、問屋やメーカーの営業マンが各店舗を回り、お客が何を望んでいるかなど考えず、自社の都合で商品を並べていく。これらをすべて否定し、ニーズの変化に対応できる仕組みにつくり替えれば、アメリカでもコンビニ経営は成り立つと考えました。

【田原】鈴木流の経営では常に「顧客の立場で」考えることを求める。アメリカはそれができていなかった。

【鈴木】そこで、「発注こそ店の特権である」と唱え、店のオーナーや従業員が自分たちで商品を発注するよう徹底させました。売れ筋商品の仮説を立て、結果をPOS(販売時点情報管理)システムで検証する。日本で行っていた単品管理をアメリカにも導入しました。すると、発注を任された従業員が、担当した商品の売れ行きについて、オフの日にも店に確認をするなど、自発的な取り組みを見せた。アメリカではパートタイマーには重要な仕事は任せられないというのが常識だったので、「奇跡だ」と驚かれました。3年目には黒字転換。以降も業績を回復させ、単品管理はそのままタンピンカンリと呼ばれて定着していきました。