なぜ接客にはマニュアルがつかわれるのか。ひとつの目的は「口を慣れさせる」というものだ。そして、同じ言葉を繰り返すことで、「つかい方」がわかる。「ありがとうございます」は、感謝にも皮肉にもなるのだ──。
驚異的な効果のある「目に見える接客」
いらっしゃいませ──。
「お客さまに満足していただくためにもっとも大切なのは、この当たり前のひと言を口にするタイミングと言い方、そして、心づかいなんです」
セブン-イレブン・ジャパンでトレーニング部のアシスタント統括マネジャーを務める森永仁さんは、そう切り出した。
「はい、かしこまりました」
「少々お待ちくださいませ」
「申し訳ございません」
「ありがとうございました」
「またお越しくださいませ」
セブン-イレブンでは「いらっしゃいませ」を含めたこの6つを接客6大用語と呼び、すべての店舗従業員が勤務開始時に唱和することになっている。
「ふだんの生活ではつかわない言葉ですから、仕事の前に声に出すことで慣れてもらいます。何かミスをしてクレームを受けたとき、いつもの会話のように『あっ、すんません』といってしまうと、お客さまを不快な思いにさせて『なんのつもりなんだ』と2重のクレームとなる恐れがあります。でも丁寧に『大変、申し訳ございません』と謝罪すれば、それを防げるかもしれない。だから従業員さんには、接客6大用語をただ口にしてもらうだけではなくて、そのひと言が、なぜ必要なのかを説明して理解してもらうようにしています」
適切な言葉のつかい方を理解して、はっきりと声に出すのが、接客の基本中の基本だとすれば、次に身につけなくてはならないのがひと言を口にするタイミングと言い方、そして心づかい。いわば、基本の応用といえるだろう。
「でも、それが、本当に難しい」と森永さんは続ける。
「サービスのスピードや丁寧な接客、あるいは品揃え……。お客さまが求めているものは、それぞれ違います。我々は『近くて便利』という店づくりを目指しているわけですが、近さは距離だけを示すわけではありません。お客さまに親近感を抱いていただけるような心理的な近さが何よりも重要になる。そのためには、個々の従業員が、ひとりひとりのお客さまと向き合って、喜んでいただけるような言葉づかいや接客技術を身につけなければならない。『近くて便利』は全員参加型の店でなくては実現できませんから」