外国人労働者をめぐる議論が活発化している。労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎さんは「日本の外国人労働政策の大きな特徴は、労使間の利害関係の中で政策を検討し、形成、実施していくというプロセスが事実上欠如してきたことにある」という――。

※本稿は、濱口桂一郎『外国人労働政策 霞が関の権限争いと日本型雇用慣行が招いた混迷の30年史』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

高市首相と小野田安保相 外国人政策の見直し議論
写真=共同通信社
外国人政策に関する関係閣僚会議の初会合で発言する高市首相。その左は小野田経済安保相=2025年11月4日午前、首相官邸

労使それぞれの利害構造

外国人労働問題に対する労使それぞれの利害構造をごく簡単にまとめれば次のようになるでしょう。まず、国内経営者の立場からは、外国人労働者を導入することは労働市場における労働供給を増やし、売り手市場を緩和する効果があるので、望ましいことです。また導入した外国人労働者はできるだけ低い労務コストで使用できるようにすることが望ましいでしょう。この両者は「できるだけ安い外国人労働者をできるだけ多く導入する」という形で整合的にまとめることができます。

これに対し、国内労働者の立場から考えたときには、外国人労働問題には特有の難しさがあります。外国人労働者といえども同じ労働市場にある労働者であり、その待遇や労働条件が低劣であることは労働力の安売りとして国内労働者の待遇を引き下げる恐れがありますから、その待遇改善、労働条件向上が重要課題となります。

しかしながら、いまだ国内労働市場に来ていない外国人労働者を導入するかどうかという局面においては、外国人労働者の流入自体が労働供給を増やし、労働市場を買い手市場にしてしまうので、できるだけ流入させないことが望ましいのです。もちろん、この両者は厳密には論理的に矛盾するわけではありませんが、「外国人労働者を入れるな」と「外国人労働者の待遇を上げろ」とを同時に主張することには、言説としての困難性があることは確かです。

国内労働者団体のとる立場

ほんとうに外国人労働者を入れないのであれば、いないはずの外国人労働者の待遇を上げる必要性はありません。逆に、外国人労働者の待遇改善を主張すること自体が、外国人労働者の導入を既に認めていることになってしまいかねません。それを認めたくないのであれば、もっぱら「外国人労働者を入れるな」とのみ主張しておいた方が論理的に楽です。そして、国内労働者団体はそのような立場をとりがちです。

国内労働者団体がそのような立場をとりながら、労働市場の逼迫のために実態として外国人労働者が流入してくる場合、結果的に外国人労働者の待遇改善はエアポケットに落ち込んだ形となります。そして国内労働者団体は、現実に存在する外国人労働者の待遇改善を主張しないことによって、安い外国人労働力を導入することに手を貸したと批判される可能性が出てきます。

実際、外国人労働者の劣悪な待遇を糾弾するNGOなどの人々は、国内労働者団体が「外国人労働者を入れるな」という立場に立つこと自体を批判しがちです。しかしながら、その批判が「できるだけ多くの外国人労働者を導入すべき」という国内経営者の主張と響き合ってしまうのであれば、それはやはり国内労働者が拠ることのできる立場ではあり得ません。

いまだ国内に来ていない外国人労働者について国内労働市場に(労働者にとっての)悪影響を及ぼさないように最小限にとどめるという立場を否定してまで、外国人労働者の待遇改善のみを追求することは、国内労働者団体にとって現実的な選択肢ではあり得ないのです。