冷え込んでいた日中関係だが、昨夏以降、改善の機運が高まりつつある。2014年11月10日、北京で2年半ぶりとなる日中首脳会議も開催された。2012年、尖閣問題で日中が揺れたとき中国大使として渦中にいた丹羽宇一郎氏は、習近平体制と日中関係をどのように見てきたか。田原氏が核心に迫る!(注:同対談は2014年10月14日に実施)

中国の国家資本主義は続かない

丹羽宇一郎氏

【田原】今、書店に行くと、とにかく中国がよくない、という本が氾濫しています。

【丹羽】日本が右傾化しているからだという人もいます。国民の中に、中国が衰退して「ざまあみろ」といってみたいという感情があるのでしょう。しかしながら、今や中国抜きにして世界は語れません。

【田原】僕は中国にも大きな問題が2つあると思う。一つは、民主派への取り締まりです。少し前から、中国共産党体制に対していろいろいっている人たちを厳しく取り締まるようになってきた。

【丹羽】私が大使だったころから人権問題は中国のアキレス腱であり、世界も厳しい見方をしています。ただ、欧米諸国は中国を急に変えさせるつもりはない。トラを野に放つと何をするかわからないから、なだめすかしながら10年くらいかけて中国共産党を国際的な価値観に近づけようとしています。少なくてもオバマ(米大統領)はそう考えていますよ。日中関係は日米関係で、日韓関係は日中関係です。つまり、日米の関係で日中や日韓の関係が決まる。今、日米は揺らいでいますから、私は中国の国内問題より日米関係をきちんとしたほうがいいと思う。

【田原】ベトナムやフィリピンと領域問題で、今、中国は相当強気に出ていますね。国内で大いに問題ありだから、対外的に強く出ているのだという人もいますが、これをどう見ますか。

【丹羽】おそらくアメリカの出方を見ているのでしょう。アメリカはアラブの春も失敗、シリアも失敗、イラクも失敗、アフガンも全部失敗して、世界の警察官ではなくなった。軍事費も、これから毎年500億ドルくらい削っていく。そういう状況の中で、ベトナムやフィリピンと揉めたらアメリカがどう出てくるかということを試しているのです。私は、お灸をすえたほうがいいと思う。向こうは出方を見ているのだから、「ちょっとやりすぎだ」「インターナショナルのルールからいったらあまりにも身勝手だ」と正々堂々というべきです。