日本経済の失速が最大の心配材料である
【塩田】延期すれば、国債価格の下落や金利の高騰が起こるという懸念の声もあります。
【山本】私はまったくないと思っています。日銀が大量に国債を買っています。日銀という大きな買い手がいて、金利が急騰するなんてあり得ない。最近は財務省の人たちも「そんなことは言いません」と話しているから、心配はないことはわかっています。
国債の価格が下がるのは、日本政府に対して信用がない場合ですが、最近の海外の見方は、逆に日本経済の失速が最大の心配材料で、経済を立て直し、成長軌道に乗せることをやったほうが信頼感は上がると思う。アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は「消費税増税は慎重に。延期したほうがいい」と、内政干渉に当たるくらいのことを言っています。いま世界経済はヨーロッパ、中国、ロシア、新興国とも、みんな悪い。いいのはアメリカだけで、そこで日本がこけたら大変だから、踏み止まってくれと言っているわけです。
【塩田】再増税を延期したら、2020年までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという約束を果たせなくなるという主張も根強いようです。
【山本】もともと2020年の黒字化は、消費税率を引き上げても達成できないという話が出ています。目標は「2015年の赤字半減化」ですね。いま精査していますが、これは再増税をしなくても十分、達成できるという数字を示すことができます。だから、まったく心配ない。むしろ再増税で経済成長が落ちて、税収が減る可能性があります。
【塩田】増税実施を延期することになれば、野田佳彦内閣時代に成立した消費税増税関連法の改正案を用意して国会で成立させる必要がありますね。
【山本】そうです。ですが、1年半の延期の場合は「2015年10月から」を「2017年4月から」と1行だけ改正する法案でいい。それだけの法案を出すか、毎年の所得税法の改正でやってしまえば一発で終わる。法律の技術上の話でできると思います。法案の提出は来年の通常国会になりますが、審議が難航することはないでしょう。
【塩田】延期する場合、なぜ1年半先の17年4月実施を想定するのですか。
【山本】あまり長く延ばしすぎてもいけないということが一つあります。1年の延期では、デフレから脱却したかどうか、物価の判定を見るのに十分ではない。成長率がゼロになり、消費税率の2%引き上げを行うと、実質賃金がまたマイナスになってしまう可能性もあり、状況として十分に自信が持てない。もう一つは、10月実施だと年末商戦に水をかけることになる。予算編成からも、事業者の準備を考えても、年度の変わり目が一番いい。
いま実質賃金はマイナス3%くらいですが、円安・株高で企業の業績はいいから、春闘で名目賃金は毎年1.5%くらい上がっていきます。そうすると、再来年はゼロくらいになり、その次の17年の春闘でさらに1.5%上がれば、消費税率を2%上げても十分にプラスでいけるという計算ですね。
【塩田】15年10月実施だと、来年9月の自民党総裁選の直後です。17年4月なら、16年7月の参院選の9ヵ月後で、選挙への悪影響は少ない。政治日程との関係もあるのでは。
【山本】深読みすれば、そういう考え方もあるかもしれませんが、私は基本的には経済の数字に基づいて、それくらいかなと思っています。