「想定内ではあるが、想定の中では最も悪い数値に近い。経済は生き物。消費、購買力の減殺を計算しないといけない」――消費税再引き上げ判断を年末に控え、安倍晋三首相の表情が険しさを増している。11月17日に発表される7~9月期の国内総生産(GDP)速報値や来月8日発表のGDP改定値を見て、年末に消費税を10%に引き上げるか否かの判断を下す方針だが、4月の消費増税による景気下振れがあまりに大きく、与党内では「もともと、首相は消費増税慎重派。再引き上げは先送りせざるをえまい」という見方が強まっている。
先送り論の急先鋒は首相の経済ブレーンの本田悦朗内閣官房参与。本田氏は「デフレ脱却」をにらみ「再引き上げは1年半延期すべき」「総理と刺し違えても消費税10%を阻止する」と発言。菅義偉官房長官に近い山本幸三代議士も先送りを求める勉強会を10月末に党内に発足させた。さらに10月31日の公明党の経済調整会合でも「再増税で経済成長が鈍化すれば元も子もない」との慎重論が多数を占めた。
「7~9月期の速報値は首相がG20首脳会合から帰国直後に発表されるが、現時点でも“極めて悪い”という情報が届いている。菅官房長官は引き上げ慎重派。一方、麻生太郎財務相と谷垣禎一幹事長は立場上、積極論を言っているが、谷垣氏は総理が先送りを決断したら反対しない。民主党が“先送りは公約違反”と批判するなら“民主党は大増税派だ”と訴えて解散・総選挙を断行すれば自民党が勝つ。首相は先送りに傾いていると見る」(自民党代議士)
これに対し、引き上げを既定路線とする財務省出身の黒田東彦日銀総裁は、首相の「心変わり」を阻止するかのように2度目の“サプライズ緩和”を実施したが、官邸関係者は、「引き上げ派の牙城は自民党税調。キーパーソンは財務省出身で党税調の取りまとめ役の宮澤洋一氏だが、首相が財務省の代弁者・宮澤氏と谷垣氏を経産相、幹事長に抜擢することで、財務省の発言力は弱まった」と語る。
引き上げ延期には法律改正が必要だが、与党多数の現状ではたやすいこと。衆院解散・総選挙とリンクしているだけに首相の判断が注目される。