「シンプルな公式」がワルのセールス十八番

霊感商法の被害が多発したのは1980年代以降のことだ。

街頭のキャッチセールスや訪問などで、無料あるいは格安で占いや家系図を見てあげると話をもちかけ、

「あなたは先祖の悪い因縁に縛られているから、不幸になる」

などと、霊魂による恐怖を煽り、高額な壺や印鑑などを売りつける。

その後、この商法への注意喚起がなされるなどしてだいぶ減ってきてはいるが、いまだに被害に遭う人は多い。今年に入り、「仏壇を見せてほしい」と高齢者の自宅を訪れて、運勢の鑑定を行い、

「祖先の祟りがある」「早死の相が出ている」

と言って、高額な水晶玉を売りつけていた男が特定商取引法違反容疑で逮捕されている。これまでに、100人以上から1億9千万円ほどを売り上げていたという。

霊感商法に勧誘される契機は、訪問や街頭キャッチなど、様々である。ということで今回は、姓名判断による霊感商法を実行するワルに関する経済教室をスタートしよう。ワルのやり口を分析すると、そこには、保険・通販業界など多くの業態で実施されている「販売の王道」的な方程式が存在したのだーー。

偽占い師は来場した客の名前を紙に書き、それぞれの漢字の横に画数を書き、その数字の上に、赤いペンで○(吉数)や△(凶数)をつける。

私の名を例にあげれば、「多田文明」という文字を紙に書き、「多」であれば、6画で吉数なので○をつけるといった具合だ。最初は、

「あなたのお名前は、総画数が23ですので、最高の運勢をもっています」

などと良い運勢を持っていると褒めてくるが、話が進むにつれて、偽占い師は深刻な顔をし始めて、次のように切り出す。

「物事が思い通りにいかない障害の相もかなり出ているので、気苦労が絶えませんね。何か悩みをお持ちではありませんか?」

客は親身になって占いを見てくれているとの思いから、つい内面に秘めている思いを正直に話してしまいがちになる。そして偽占い師は、相手の悩みを聞き出すや、ここぞとばかりに先祖の因縁を入れて脅しはじめる。「仕事がうまくいかない」と聞くと、

「お金が流れるという数字が出ています。あなたは、いい仕事につけません。それは先祖に人を騙したり、人のお金を盗んだりした悪い人がいるからです!」

また、「恋愛が悩み」と答えるとこんなふうにいう。

「あなたは幸せな結婚ができません。なぜなら、先祖に女性を不幸にした人がいるからです!」

さらに、偽占い師はこのままの状態では先祖の祟りによって、病気や事故などで人生が大変なことになってしまうと畳み掛けてくる。そこで客が「どうしたらいいか?」と尋ねると、因縁から逃れる方法として、開運の印鑑や水晶玉、数珠の購入を勧めてくる。