保険・通販業界にみる「買えば救われる」営業
霊感商法というと、ただ単純に霊を利用して恐怖心を煽っているように思いがちだが、そこにはしっかりとした、騙しのシナリオがなければ、いくら霊の怖さを訴えたとしても、相手の心には刺さらない。
先ほどの事例をみてもわかるように、勧誘者らは導入部分で、来場者に悩みを口にさせながら、不幸な人生ストーリーを作り上げる。そこへすかず、霊というスパイスを振りかけ、すべての不幸の原因は、「先祖の因縁にある」として、このままでは、さらなる不幸が訪れると説き、相手の心を先祖の因縁話でがんじがらめにする。
そこで占い師は、先祖の祟りの呪縛から逃れる方法として、「開運グッズをかえば、良い」というシンプルな解決法を呈示する。「そんなことで祟りから解放されるなら」と相手は購入へと気持ちが傾いてしまう。
本来、人生における問題は、複雑に物事が絡み合っていて、解決は容易ではないものだが、すべての原因を霊のせいにして、それを取り除けばよいとする簡単な話にしてしまうのだ。
この複雑な事象を相手にわかりやすく理解させるために、話を単純にして自分を利するやり方は一般のビジネスでもごく普通に行われている。
たとえば、保険などの勧誘では、セールス担当者はまず相手の既往歴や家族の病歴などを尋ねて、将来への病気への不安を聞きだすことが多い。その上で、細かい条件付きの死亡保険がん保険、医療保険などの商品説明を一気にする。
聞きなれない医療用語や保険業界の用語(「保険金」「保険料」など)を大量に浴びせられた客はこの時点で頭の中が大混乱。そのタイミングを見計らうかのように、担当者はいくつかの商品を客に選択肢として与える。
保険情報の大洪水から一刻も早く逃れたい客は、その選択肢に飛びつき、他の選択肢を探すことをやめてしまう。担当者から、月々の掛け金を払い、〇〇保険に入っておけば、万が一の事態が起きたとしても手厚い保障があるので安心だという意識を植えつけられていることもあり、正常な判断がしづらくなってしまうのだ(ただし、そうしたセールスが霊感商法のように違法ではないことがポイントだ)。