「わたり」知らぬ首相官民格差を直せるか

多くの自治体は職員の退職金を支払うため、06年度から「退職手当債」の発行、すなわち新たな借金を始めている。金額は08年度だけで6300億円にものぼる。今年3月の参院予算委では、元長野県知事で参議院議員の田中康夫氏が鳩山邦夫総務相に対し、こう質した。

「(職員の)退職金を満額払うために借金しなさいという法律を(当時の)与党の方々が推進されました。総務大臣であられる鳩山さんは見直しされるご意思があられますか」

鳩山総務相は弱腰だ。

「財政規律という面では問題が生じるかもしれないが、地方がしっかりやっていけるならば問題ないと思っております」

この答弁は官僚が考えたものだろう。ちなみに、田中議員の質問は筆者が協力したものである。続いて田中議員は財務省作成の資料を配った。この資料では東京都を除く道府県で地方公務員給与が民間給与を上回ることが示されている。さらに地方公務員の6割が管理職の俸給を得ており、その原因として職務に対して俸給が高い「わたり」の問題を指摘していた。田中議員は、資料に見入っていた麻生太郎首相に問いかけた。

「麻生さん、地方公務員のわたりということに関してはご存じですか」

首相は顔を上げ、立って答える。

「そんなに詳しく知っているわけではございません」

鳩山総務相が慌てて助け船を出した。

「わたりは、出世しないと言ってはいけないかもしれませんが、下のクラスにずっといる方へ温情で、例えば肩書は係長のままでも課長補佐ぐらいの給料にするというようなことで行われてきたもの」

先のトヨタの元社員は憤る。

「公務員の給与が高いのはおかしな話。遅れず、休まず、働かずと揶揄されたような、楽して儲かる世界は、日本の競争力を弱めるでしょうね」

荒波にもまれる民間企業より倒産の心配もない市役所のほうが厚遇なら、学生は役人になる。だが住民票の発行は高給に値しない。自浄は期待できない。民間企業の活力を取り戻すため、政治主導による官民格差の是正が望まれる。

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部=撮影)